咲く花散る花 6
翌日も凪と稽古をすることになったが、二人の間に会話はなかった。陶香はぼんやりと考え事をしながら、ただひたすら剣を振るっていた。
もう一度話し合うべきだろうか、と隣にいる凪の顔をちらりと見遣る。
彼女もまだ先日の件を気にしているらしく、頑なに目を合わせようとしない。
「千波さーん」
持参したスポーツドリンクを飲みながら壁際で休んでいると、見知らぬ生徒二人組が手を振りながら駆け寄ってきた。
「ねぇ、千波さん。良かったら私たちと練習しない?」片方が凪に向かって言う。
「え……凪と?」
「うん! 千波さん、C組でしょ? 私たちもなんだ」
「でも、えっと、今は」
凪は気まずそうに陶香の顔色を窺う。
「行ってあげたら?」陶香は無表情で促した。「私は一人で練習できるから」
「う、うん! ごめんね、陶香ちゃん……」
「どうしてあなたが謝るの?」
小声で呟いて、再び剣を手に取る。気を取り直して練習を再開しようとするものの、どうも気が晴れない。暗鬱とした心情が取り憑いて離れないのである。
顔を上げると、体育館の隅で凪たちが楽しそうに話しているのが見えた。
(あんな顔、私の前では見せてくれなかったな。……)
そう思いながら、重苦しいため息を落とした。
───桃谷学園の合格発表の日、家にいたのは陶香と母だけだった。父は急な仕事で数日間家にいなかった。
祈るように手を擦り合わせた後、震える指で画面を更新する。
合格か、不合格か。
もう運命は決まっている。
判決は下されている。
あとは自分の目で確かめるだけ。
意を決して、目を開く。
「えっ……」
切り替わった画面に映し出されたのは、満開の桜の花。
そして、『合格』の二文字。
「合格……?」
思わず気の抜けたような声が出る。
「私、桃谷学園に受かったの……?」
「うっそぉ、あんた合格したの?!」
陶香以上に母が驚いていた。しばらくの間、食い入るような目で画面を凝視していたが、突然陶香の方を向いて、
「おめでとう。陶香」
穏やかな声で言って柔和に微笑んだ。
これだ、と陶香は確信した。やっと見つけた自分の居場所。探し求めていたもの。何もなかった人生に現れた、自分の進むべき道。十五年かけてやっと見つけ出したのだ。───
(そうだ、私は桃谷学園で結果を残さないといけない。戦に勝ち続けて、天下統一して、そして “戦国式教育” のために生きる。……誰にも邪魔なんてさせない)
「絶対に勝ってみせるから……」
誰にも聞こえない声でひとりごち、剣を握りしめる。
「だから、見てて」