表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦の花道 〜少女たちは天下統一を目指す〜  作者: ふく
咲く花散る花
6/203

咲く花散る花 6

 翌日も凪と稽古をすることになったが、二人の間に会話はなかった。陶香はぼんやりと考え事をしながら、ただひたすら剣を振るっていた。

 もう一度話し合うべきだろうか、と隣にいる凪の顔をちらりと見遣る。

 彼女もまだ先日の件を気にしているらしく、頑なに目を合わせようとしない。


「千波さーん」

 持参したスポーツドリンクを飲みながら壁際で休んでいると、見知らぬ生徒二人組が手を振りながら駆け寄ってきた。

「ねぇ、千波さん。良かったら私たちと練習しない?」片方が凪に向かって言う。

「え……凪と?」

「うん! 千波さん、C組でしょ? 私たちもなんだ」

「でも、えっと、今は」

 凪は気まずそうに陶香の顔色を窺う。

「行ってあげたら?」陶香は無表情で促した。「私は一人で練習できるから」

「う、うん! ごめんね、陶香ちゃん……」

「どうしてあなたが謝るの?」

 小声で呟いて、再び剣を手に取る。気を取り直して練習を再開しようとするものの、どうも気が晴れない。暗鬱とした心情が取り憑いて離れないのである。

 顔を上げると、体育館の隅で凪たちが楽しそうに話しているのが見えた。

(あんな顔、私の前では見せてくれなかったな。……)

 そう思いながら、重苦しいため息を落とした。


 

 ───桃谷学園の合格発表の日、家にいたのは陶香と母だけだった。父は急な仕事で数日間家にいなかった。

 祈るように手を擦り合わせた後、震える指で画面を更新する。

 合格か、不合格か。

 もう運命は決まっている。

 判決は下されている。

 あとは自分の目で確かめるだけ。


 意を決して、目を開く。


「えっ……」

 切り替わった画面に映し出されたのは、満開の桜の花。

 そして、『合格』の二文字。


「合格……?」

 思わず気の抜けたような声が出る。

「私、桃谷学園に受かったの……?」

「うっそぉ、あんた合格したの?!」

 陶香以上に母が驚いていた。しばらくの間、食い入るような目で画面を凝視していたが、突然陶香の方を向いて、

「おめでとう。陶香」

 穏やかな声で言って柔和に微笑んだ。


 これだ、と陶香は確信した。やっと見つけた自分の居場所。探し求めていたもの。何もなかった人生に現れた、自分の進むべき道。十五年かけてやっと見つけ出したのだ。───



(そうだ、私は桃谷学園で結果を残さないといけない。戦に勝ち続けて、天下統一して、そして “戦国式教育” のために生きる。……誰にも邪魔なんてさせない)


「絶対に勝ってみせるから……」

 誰にも聞こえない声でひとりごち、剣を握りしめる。

「だから、見てて」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ