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戦の花道 〜少女たちは天下統一を目指す〜  作者: ふく
咲く花散る花
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咲く花散る花 4

 初心者の凪は、はじめのうちは手も足も出ない状態だったが、稽古を重ねるにつれて基礎はマスターできたようだった。フォームもぎこちなくはあるが、形になってきている。


(ただ……)


 ちょうど素振りの練習を終えたところで、陶香はちらりと凪を横目で見て、「少し休む?」と訊いた。

 稽古をするうちに、凪について分かったことがある。

 それは、彼女のスタミナが尽きやすいということだった。


「う、うん……ちょっとだけ休もうかな」

 凪は引き攣った笑顔で答える。


 体育館を出て廊下を鎌の手に曲がると、ちょっとした休憩室が設けられているのだが、そこには給水器やソファも置かれていた。


 ドアを開けると、休憩室は無人だった。先に凪に水を飲ませて、陶香はソファに腰掛ける。

「陶香ちゃん、ごめんなさい」口元をタオルで拭きながら、ぽつりと凪が呟いた。

「何が?」陶香は首を傾げた。何も謝られるようなことをされた覚えはない。

「だって凪、ずっと陶香ちゃんの足引っ張ってばっかりで……陶香ちゃんも、もっと練習したいよね……?」

 凪は壁にもたれて俯いている。


 その様を見て、陶香はため息を落とした。

「私のことを哀れんでるならそんな考えは今すぐ捨ててしまうことね」

「違うよ! あのね、そんなつもりじゃなくて」

「そうじゃなかったら何なの?」

 思わず声を荒げていた。

 自分でも驚くほど苛立っているのが分かる。

 深呼吸をして、冷静さを取り戻す。感情的になっては駄目だ。

「ねぇ、千波さん。一つ質問があるの」

「質問?」

「この間の自己紹介の時。千波さん、こう言ったでしょ? 天下統一したら、この国の教育を変えたいんだって」

「う……うん」

 凪は怯えたように頷く。

「どうして、ああいうことを言ったの?」

「だって、ほ、本当にそう思ってるから……」

「あなたは今の教育制度に反対してるってことね?」

 今度は少し間があって、そして僅かに頷いた。

「反対の立場で、なんでわざわざこの学園に入ってきたの? ここでは戦がすべてなのよ。敗者は勝者に従わなければならない。そんな考え方がまかり通っているの。そう、だからきっとあなたの理想とはかけ離れてる。みんな仲良しこよしで手を繋いで同時にゴールすることはできないの」

「そんなの……分かってるよ」

 凪は下を向いたまま呟いた。

「じゃあもう一つだけ訊きたいんだけど。千波さん、あなた争いは嫌い?」

「……うん」

 ややあって、凪はどこか申し訳なさそうに答えると、

「陶香ちゃんはどうなの? 好き? それとも嫌い?」と尋ねた。

「そうね、私は……どうだろう」

 陶香は言葉に窮した。

 目を泳がせて、凪の視線から逃れようとする。

「別に、好きというわけじゃないけど……」

「陶香ちゃんは、戦で勝ちたいんだよね」

「そうよ」陶香は即座に肯定する。

「私は勝つためにこの学園に来たの」


 不意に、入学式の日の光景が脳裡をよぎった。


 講堂に集められた二百人の生徒。彼女達の視線の先にあるのは、巨大なモニター。画面の向こうで、祝辞を述べる国のお偉いさん。それから新入生は各自の教室に移動させられ、場面は自己紹介の時間に切り替わる。


「清水陶香です」


 自分の番が来て、陶香は立ち上がった。目という目が陶香を見つめていた。この年になっても、自己紹介というのは毎回緊張する。 怖気づきそうになりながらも、拳を握りしめて言葉を続ける。


「私は天下統一を成し遂げて卒業したら、現在の教育制度……“戦国式教育” の強化を行いたいのです。まずは手始めに各都道府県に一校ずつ、この桃谷学園のシステムに基づいた学校を設置します。そこまでしなければ、近い将来この国は滅びてしまうでしょうから……」


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