月明かり
つげ義春という漫画家をご存知ないだろうか。
かなりマイナーで、知る人ぞ知るといった感じの漫画家だが、私は若い頃、この漫画家の大ファンで、出版されている本を片っ端から買って読んでいた。
たぶん、そんな私がもう40代くらいになった時に母が詠んだ歌だと記憶する。
そんなつげ義春さんは、今どこでどうしておられるのだろう。
・月明かり書画をともせば置き去りし
「つげ義春」がひそと息づく
母はいつか、私のことも分からなくなってしまう時が来るのだろうか。
トイレの世話をしたのも、食事の準備をしたのも、自分の息子だということが、いつか分からなくなるのだろうか?
・少年の夢の記憶が流れくる
月に光るは小さき引き出し
母は20年以上前から難病で足が悪く、すでに長い距離を歩くことはできなかった。
そんな母が、日常のひとこまを読んだ歌がある。
・歩くのが限界なればいずこでも
我に優しき椅子探しおり
思えば、難病と戦い、やっとのことでここまで来て、抱えてる病気はもはや片手では数えられない。
老いてゆくというのは、往々にしてただ老いるよりも、辛い病気との闘いがついて回ることが多い。
母を見ていると、自分はどう老いてゆくのだろうなどと考える。
母の作った短歌に付き合ってくださった読者の方、本当にありがとうございます。