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第一話

 機構鎧国際研究機関。西暦2032年、日本の某所に開発された巨大区画の総称であり、英語に直したものを略して通称MIRI(Machinemale International Research Institution)と呼ばれている。広大な面積を持つこの区画内で、MM(マシンメイル)に関するあらゆることが行われている。例えばMM本体の研究及び開発は勿論のこと、部品製造、武装製作、実機使用による演習などその内容は多岐に渡る。

 そしてその「あらゆること」の中には、MM(マシンメイル)に関わる人材の育成も含まれている。それに該当するのが、MIRIの一角である教養区に建てられている『機構鎧士養成学園』だ。

 MM(マシンメイル)に搭乗するパイロットは勿論のこと、整備士や開発者、果ては戦闘を補佐する後方支援者(オペレーター)まで、MMに関連するあらゆる分野に精通する人材育成を行っている。

 俺は今年この学園の中等部から高等部へと進学する際、機甲兵士科――――つまりMM(マシンメイル)による戦闘の専門学部へ所属することを希望していた。幼い頃からMM(マシンメイル)に乗ることを夢見てここまで来たのだから当たり前だ。

 しかしついさっき、その幼い頃からの夢があっさりと打ち砕かれたところだった。理由はというと……

「この身体さえなんとかなりゃあな……」

 そう、個人差とかそういうレベルではないくらいのミニマムサイズである自分の身体だった。

 MM(マシンメイル)に搭乗する為にはいくつかの制限をクリアせねばならないのだが、その内の一つに『体格制限』というものがある。どうしてそんなものがあるのかといえば、まあ簡単に言うとジェットコースターの身長制限のようなものだ。

要するにコックピットのシートは勿論子供が座ることなど前提にされていない為、あまりに小柄な者が搭乗すると色々危険なのである。

 一応ある程度の調整は可能ではあるものの、規定されている制限は最低でも身長150㎝以上。10㎝以上も足りない。

 そして残念なことに、『機甲兵士科』を始めとするMM(マシンメイル)への搭乗を伴う学科は、前述のいくつかの制限を全てクリアしていなければ進学できないのだ。

 俺の場合他の制限は全てクリアしていたのだが、『体格制限』だけはどうにもならなかった。それでも往生際悪く機甲兵士科への進学志望を提出していたのだが、入学式を三日後に控えた今日呼び出しがかかり、やはり受理できないという通達を中等部の担任を務めていた講師から告げられたのだった。

「はぁ……」

 正面玄関を出て、大きく溜息をひとつ。

 どうしようもないことなのは分かっていたし、ある程度この結果も予測できてはいたのだが、それでも溜息のひとつくらい吐かずにはいられないというものだ。

 小さな頃から―――今も小さいが―――MM(マシンメイル)に乗ることを夢見てきた。その為の努力も一切惜しまなかったつもりだ。にも拘わらず、『身長』などというつまらない理由で今までの努力が全て気泡と化した。正直立ち直れる気がしない。


「いよぅ!なーんか辛気臭ぇツラしてんなコタロー!」


 無遠慮で空気の読めない、無駄に明るい声の主にばしーんと後頭部をはたかれる。いつもならその能天気な笑顔を貼り付けたバカ面に蹴りの一つでも入れてやるところだが、今はその気力すら起きない。

「何の用だよ、カズ……」

「おう……マジで(くれ)ぇな。あれか?やっぱダメだった?」

 普通なら遠慮して聞いてこないようなことを、初等部からの付き合いである幼馴染のカズ―――柴 和仁(しば かずひと)は、何のためらいもなく聞いてきた。

 まあ、とはいえもうダメだと決まったことだ。変に気遣われる方が居た堪れないし、逆に有り難くもある。

「流石にサイズの問題はどうにもならねーってよ」

「だはは、やっぱそうか。そりゃどうにもならねーわなー」

 のんきに笑ってくれやがる。

 こちとら長年の夢が潰えたばかりだと言うのに、この幼馴染はそんなもの意に介さず豪快に笑い飛ばしていた。そんな姿を見ていると、なんだかくよくよしているのも馬鹿らしくなってくる。

―――落ち込んでても仕方ねえ……か……

 そんな暇があるなら、眼前のことに集中した方がまだいい。それに、実際問題完全に夢が潰えたのかといえばそうでもないのだから。

「んで、結局学科はどうするよ?機甲兵士科はダメだったんだし、他の学科選ばなくちゃいけねーだろ?」

「……整備科だろうなぁ、行くとすれば」

「整備科ぁ?あんな就職率が良いだけのじみーな学科に行くのかよ?」

「そりゃ言いっこなしだ。地味だろうがなんだろうが整備なくして機械は動かねえよ。それに、実は整備科には他にはない利点があってだな―――」

「琥太郎……ここに居たんだ。随分探した」

 横から聞こえてきた声に、二人揃って振り返る。色素の薄い短髪が目を引く、涼しげな表情をした少女がそこに立っていた。

「ユナか。なんだよ、お前も夢破れた俺を笑いにきたのかよ?」

「それも面白そうではあるけど、残念ながらそうじゃない」

 カズと並んで付き合いの長いもう一人の幼馴染であるユナ―――氷乃宮 優奈(ひのみや ゆな)は、俺の問いに対して首を振った。

 ていうか残念言うな。人の不幸を面白いって言うな。

「琥太郎のお父さんに頼まれた。琥太郎を呼んできてほしいって」

「親父が……?」

 眉をひそめて聞き返すと、ユナはこくりと頷いてこう続ける。

「なんだか知らないけど、見せたいものがあるって言ってた」

「見せたいものねぇ……」

 何だろうか。正直嫌な予感しかしない。

 そもそも幼い頃から何かと家を空けることが多かった癖に、たまに何かあると不躾に呼び出すその身勝手さが何とも気に食わない。まあ、あの奔放な父親にそれらの道理を説いても無駄なのは既に学習しているので何も言わないが。

「はぁ……ああ、分かったよ。研究区にある親父のラボで良いんだよな?」

「そっちじゃない。開発区の方って言ってた」

「開発区……?」

 ユナから告げられた予想外の言葉に首を傾げる。仕事の手伝いなどでいつも呼び出されるのは教養区の東側にある研究区のラボなのだが、今回は何故か正反対の西側に位置する開発区らしい。確かにあそこにも親父のラボはあるが、そちらに呼び出されたことは一度としてない。にも拘わらず、わざわざ開発区のラボに呼び出されたということは―――

「……いや、まさかな」

 そんな呟きを漏らしつつ、俺は開発区の方へと足を向けるのだった。



* * *



 小人 大悟郎(こびと だいごろう)MM(マシンメイル)に携わる者でその名を知らない者は恐らく居ないだろう。何故ならそれはMM(マシンメイル)開発における第一人者の名前であり、このMIRIの創始者にして総帥の名前でもあるからだ。

―――ま、息子の俺に言わせれば趣味にかまけて家庭を顧みないダメ親だけどな

 勿論尊敬する気持ちがないとは言わない。MM(マシンメイル)を開発し、更にはその研究機関を組織するなどそう並大抵の人間にできることではない。俺が「MM(マシンメイル)のパイロットになりたい」という夢を抱くようになったのも、親の影響が大きいことは明白だ。

 だが、仕事に没頭するあまり家に殆ど帰らず、逆に息子を仕事場に呼び出すというのは親としてどうなのかと思ってしまう部分があるわけで。もっともそれもこの年になるといい加減慣れたが。

「てか、お前らはなんでついて来てるんだよ」

 ラボの扉を開けようという時、当たり前のように後ろを歩いて来ていた幼馴染二人に問いかける。

「いやぁ、面白そうだし?普段呼ばれないところに呼び出しとか、なんかありそうじゃん?」

「……野次馬根性」

 自分で言うなよ。

 まあいい。カズとユナのことは親父もよく知ってるし、邪見にするようなことも無い筈だ。躊躇うことなくラボの扉を開ける。

「おーい、来たぞ親父。見せたいものって―――」

「あぶなあああああああああああい!!」

 鋭い声が聞こえた直後、凄まじい爆音と共に黒煙が噴き出してきた。俺は間一髪のところで回避に成功したが、後ろにいた野次馬二人は反応できず直撃を喰らった。

「ぶわーーーっ!!??」

「げほっ!!ごほっ!!な、なにが起きて……?」

咳き込みながら慌てて煙幕から脱出してくる。二人とも煤に塗れて真っ黒になっていた。

―――またかよ

 爆発事故に出くわすのは、実を言うと珍しくない。何せ研究区のラボに手伝いで呼び出された時にも似たようなことは数えきれないほどあったのだから。扉の一番近くにいた俺が回避に成功したのも、長年の経験から来る勘によるものだ。

「HAHAHAHAHA!いやぁ、失敗失敗!やっぱ無茶はするもんじゃないな!」

 そして、煙がおさまり始めた中から豪快に笑いつつ出てくる中年男性。白衣を身に纏ってはいるが、カズたちと同じく煤だらけな上に髪はボサボサで無精髭も伸び放題。とても巨大組織のトップには見えないが、残念ながらこの人物が俺の親父にしてMIRIの総帥である小人 大悟郎その人である。

「どういう無茶をしたのかはこの際聞かねえが、息子が来ることを分かってて敢えて爆発するような無茶をする神経が俺には分からん」

「HAHAHA!知らんのか息子よ!実験に爆発は付き物!常識だぞ」

 知るか。あと世界中の科学者に謝れ。

「おやっさん、お久しぶりっす。相変わらずやることが派手っすね」

「……派手なのは良いけど、できれば巻き込まないで欲しい」

 服についた大量の煤をはたきながら、ユナは半眼で親父を見据える。

「おおユナちゃん、伝言ありがとう。カズくんもよく来てくれた。ささ、上がった上がった。せっかく来たんだからキミらも見ていくと良い」

「いや親父よ、見ていくと良いって言うがそもそも何を見せようとしてるんだ?」

 俺の疑問に対して、親父は「そんなもの決まっているだろう?」と勿体ぶった調子で両手を広げ、ニヤリと笑ってこう付け加えた。

「愛息子へ、高等部入学祝のプレゼントさ」


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