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Sixth Lift(第六話)

避けられない18inは実に恐怖です。文中にミスがあったので差し替えました

2001年11月8日、カリマタ海峡・よいまちづき




夜の闇をまとい、7隻の艦隊は進む。隊列はタイ海軍のはつゆき級駆逐艦3隻の後に続いておぼろづき・みつづき・よいまちづき、そしてトンブリの順である。艦隊の指揮は階級の高い、タイ海軍のバヤン少将が執っている。指揮官陣頭としてトンブリが一番艦でないのは、彼が怖じけづいたからではない。この海峡部で攻撃にさらされ、もしもがあった場合に先頭が後ろを塞がないようにするためだ

『・・・』

永野は前方のみつづきのウェーキを眺めていた。夜光虫の一種で、ウェーキが白く光っている。これを夜間航行中は追うのだ

『そろそろ、か』

敵の18in砲の射程圏内にはいる

『対空警戒を厳となせ、アイギスでは敵のレーダーに劣るという事を忘れるな』

永野は注意を促す。アイギスが敵のレーダーに劣るというのは事実だ、この海域に於いては

太平洋や南シナ海で戦うための対空レーダーを組み込んだアイギスシステムは、ここのような多島海では虚探知(見えすぎて)の削除に能力を割かれてしまうのはどうしようもない。勿論敵のレーダーが太平洋等の広い海域に出て来たら逆の事が起きる。低空を飛ぶ対艦ミサイルの探知に失敗する恐れがあるのだが

『さて、どう出る』

敵には我々を射撃するにもいくらかの選択肢がある。



一つは先頭艦を狙っての集中射撃、後続を立ち往生させる意でのオーソドックスな手

二つは明らかに大きい我々、つきクラスの先頭から順に集中射撃という堅実な手

三つは弾の威力を頼み、旗艦とおぼしい艦を最初から攻撃するために、単艦ごとの攻撃を行う



この三つだ、敵は

『本艦隊に急接近する物体4!目標は・・・おぼろづきです!』

CICからの報告が入る。自分達が狙われてない事にホッとしながらも、永野は思った。敵は堅実なタイプか!と

『航海長、前方のみつづきに注意。転舵に備えよ』

『ようそろ』

航海長は微動だにせず答えた。肝が据わってるなぁ




おぼろづきCIC




『弾着まで10秒!』

隊司令はディスプレイに表示された画像。自艦の針路と、点滅しながら小さくなる砲弾の着弾予想範囲円を確認する

『狭叉、か』

近くは無い、だが、捉えられている。こうなってしまえば、後は相手を先に沈める以外に手は無い。しかし我々にその手段は無い。艦が少し揺れた。敵の弾が海面へ弾着したのだろう

『次弾、来ます!』

『・・・遠いな』

せめて、魚雷が使える距離まで接近できれば、一矢むくいれたのだが・・・いや、未練だな。

『隊司令!ミサイルを撃たせてください!』

『一斉発射でなくば、攻撃の意味を無さん。僚艦に無用な圧迫を与えるな』

海軍軍人なら黙って死ね




ザババババババ!!!




『むっ』

『うわっ』

次弾の弾着はさらに近くに着弾のためか、水柱を被る音と、先ほどより激しい揺れに襲われた

『次弾・・・っ!』

報告の声が途中で途切れた。弾着予測円が小さくなりながらもおぼろづきを完全に捉えている。艦長は動きの小さい回避運動を行ってはいるが、これは当たるな

『現代の砲撃戦は緩やかな死を運ぶ、か』

『総員!対衝撃姿勢を為せ!』

艦長が艦内放送で叫ぶ。しかしそれも虚しく響くだけだった




・・・その瞬間、マッハ2を越える弾体はおぼろづきのマストを吹き飛ばし、後部煙突から艦内に侵入した。そのあまりの衝撃にイルミネーターが基部から外れ、海面に落ちる。さらに進む18in砲弾は、最終的に艦底の発電機室まで到達し、14キログラムの炸薬を起動させた。そしてその直上には、後部のVLSセルが存在していた



よいまちづき・艦橋




『っ!!!』

『おぼろづきが!』

閃光の後に現れたおぼろづきは、あまりに無惨な姿を晒していた。艦尾の部分はひきちぎれ、斜めに傾きながら海中に引き込まれようとしていた



ドーン・・・



轟音が光景よりも遅れてやってきた。それが、この光景が現実だと知覚させる

『ああっ!』

そんな状態のおぼろづきに、次弾がふりかかる

『くそ野郎め!あんな状態になってるのに、そんなに痛めつけたいのか!』

乗員の誰かが毒づいた。永野はそれが撃沈を確認する前の射弾だという事を理解していたが、あえて押し黙った。敵をわざわざ擁護してやる必要も無い

『気をつけろ、漂流物にスクリューをやられたら事だ』

『見張り警戒を厳となせ!漂流物を見逃すな!』

永野の言に航海長は頷いて命令を下す。しかし、それほど針路に余裕があるわけでは無い

『前方に漂流者!』

案の定、脇を通ったみつづきの流れに乗せられ、おぼろづきの乗員がよいまちづきの前に引き寄せられる

『艦長!』

『・・・針路このまま』

恐怖にひきつった顔をした漂流者は、艦の影に入って見えなくなった。人間の身体でスクリューをやるのは不可能だ、問題は無い、問題は無いのだ・・・!

『艦長、このままではいずれ』

航海長が進言してくる。そんな事はわかっている!

だが、手は無い。早く海峡を抜けて、広い海域に出るしか・・・!あるいは

『艦長!トンブリから命令です!』

永野は息を飲んだ。撤退か?撤退!

『指示した地点に投射可能な魚雷を全て投入せよ!です!投入箇所は暗礁です!』

そうか!いや、何と無謀な!トンブリのやろうとしている事は、事前調査も無しに道なき場所に道を造ろうとするようなものだ。それは、魚雷が爆発した所は通れるかもしれない。だが、どれだけ破壊できるかも、その先の安全性も保証出来ない

『そんな事は百も承知か』

そんな程度が想定できないバヤン少将ではなかろう。全てのリスクをわかっての行動に違うまい

『水雷戦用意!トンブリの指示あり次第撃て!』

『了解!魚雷発射装置をホットに!トンブリの指示あり次第撃ちます!』

是非もない。今すぐに転舵して逃げ帰りたいところだが、やれることがあるならば、やっていくべきだ

『みつづきに射弾が集中します!』

前方のみつづきが水柱に囲まれる。みつづきはどこまで持ちこたえられる。彼女がやられたら、次は我々なのだ

『魚雷撃ち方始め!』




シュポンッ!!




圧搾空気によって、各艦から魚雷が海中へと踊り出る。

『トンブリ、舵をきります!っ!?艦長!前方のチェンマイも舵をきります!』

『何故だ!』


トンブリはわかる。だが、前方を進むチェンマイは海峡を出る寸前だった。こんな所で舵を切ったら・・・

『演技か!』

おぼろづきが撃破されたことを、トンブリが撃破されたように見せかけるつもりなのだ。指揮が乱れたように見せかけるのに加えて、トンブリの行う離脱行へのカモフラージュにもなる

『駆逐艦乗りのかがみですな』

航海長が呟く、旗艦のしたいことを瞬時に理解し、その援護となるべき最善と思われる行動を即座に実施する




ドドドドドド!!!




暗礁に魚雷が命中し、巨大な水柱が発生する。しかし、その効果を確認する間も無くCICから悲鳴じみた報告が艦橋に響く

『敵弾2!こちらに来ます!』

つまり、彼等は騙されたという事か。座礁コースにある艦を狙う必要は無いし、最大脅威のトンブリが失われたとされる状況であるなら、余裕をもって我々を撃てばさらに混乱が増すだろうと考えたに違いない

『トンブリはどうなった!』

永野はたまらずに叫んだ。我々の命運は彼女に全てかかっているのだ




トンブリ、CIC




『長官。奴ら、既に勝った気でいるようです』

艦体を何箇所も掠ったせいで発生した浸水による傾斜を回復させながらも、トンブリは暗礁の突破に成功していた

『そのようだな・・・では、始めようか』

バヤン少将は興奮する参謀をよそに、静かに告げた

『撃ち方始め』

相対位置はこうだ、カリマタ海峡を南東方向へ進んでいた日泰艦隊を、英蘭艦隊はT字を描くように機動して迎撃していた。トンブリは座礁の危険を省みずブリトゥン島沿岸沿いを進んだわけだから、モニター艦の射界からは完全に外れている。そのうえ逆T字で全門斉発が可能ときている




後の展開は一方的だった。トンブリの分6発、十門の圧倒的な投射弾量に、砲塔以外は無きに等しいモニター艦の防御では耐え切れるはずもない

『撃ち方やめ、各艦旗艦に集まれ』

バヤン少将がそう命じた時、海上に残っていたのは、日泰海軍の5隻だけになっていた。よいまちづき以外は大なり小なり傷を負っており、勝利とは程遠い姿ではあったが

『駆逐艦2隻を取り逃がしましたな。もう少しよいまちづきが働いてくれれば』

参謀が愚痴る

『仕方あるまい、みつづきがスクリューをやられて迂回航路をとらざるを得なかった』

みつづきは18in砲弾の至近弾を受けて、片舷のスクリューを破損。よいまちづきを塞ぐように動いてしまい、よいまちづきは敵から離れるような急転舵を余儀なくされたのだ。不慮の事態は戦場につきものだとバヤン少将は判断する

『さて、次の状況を作らねばなるまい』

その言葉に、参謀は背筋を伸ばした

『状況を、開始するのですね』

頷くバヤン少将

『状況を開始する。みつづきとよいまちづきへ回線を繋いでくれたまえ、直接説明する』

バヤン少将はあくまでも淡々とした口調で言った





少将のいう状況とはなんなのか、寺津中将の第三艦隊本隊はマレーシアラインを突破できるのか・・・静かな海は遥かに遠く、嵐は止みそうにもなかった

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