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Third Lift(第三話)

ピナツボ火山噴火より一月後




佐世保



かつて皇族が船でここを訪れた時、嵐にあって帆が裂けていた事から、裂け帆、転じて佐世保となった此処に、永野は居た

『駆逐艦よいまちづき艦長を任ず、か。やれやれ』

海軍はそれなりに温情を与えてくれたらしい。

[先のピナツボ火山噴火で、世界的な冷害の発生が予想されています]

テレビはフィリピンでの災害救出よりも、そのあとの事に目を向けはじめている

[赤道上に多く噴出された噴煙は、メコンデルタや、インドの食糧生産に大打撃を与えるのは間違いないですね]

コメンテーターの言葉に耳を立てながら、長崎名物の角煮まんを頬張る。間違いなくもっと高くなるからも少し食っとこうかな

『おやじさん、追加でn『おっさーん!!』

・・・どこかで聞いたような声が

『げっ!?あんたは!』

背を向けようとしたが、間に合わなかったらしい

『あんたは!聞いたわよ、あの時白根を動かしてたのはあんただって』

『ええ、私が指揮を受け継ぎました。大村中尉』

あんまり相手にしたくないんだけれども

『・・・なんでもっと助けられなかったんですか、永野・・・中佐。まだ救えた筈です』

階級を言ったことで、彼女も居住まいと口調を変えた

『我々は必ずしもフィリピン国民の安全の為に存在している訳ではありません』

彼女の目が吊り上がる、まぁ、そうだろうな

『でも中佐は、船舶の生存者を助けましたよね』

『・・・知らないね』

少し、ほんの少しだが、彼女の顔から険しさが無くなった

『自分の手柄では無い、と』

『緊急避難に出くわしただけです』

ああ、そうか。この階級章が気に食わなかったわけだ

『・・・正直、今度の昇進は早過ぎると思っています。その任もね』

失敗するのを期待しているように勘繰ってしまうぐらいだ

『・・・ヤな奴、というのは撤回します。すいませんでした』

『かまわないよ、事実だ。』

永野は肩をすくめた

『さらに事実を言えば、救助の為に命を賭けるのに腰が引けただけだしね。私は臆病者だ』

彼女はポカンとしている。しまった、しゃべり過ぎたか

『話は終わりかな?』

『なにか、あったんですか?』

・・・ええい、こんな時だけ鋭い

『中尉、言いたくない事の一つや二つくらいあるだろう』

席を立つ

『待ってください。あの場に居た人間として、知っていただきたい事があります』

『なんだ』

彼女は一度、思い出すように目をつぶった

『あの時、船で【作業】を行った私達は見たんです、火砕流に巻き込まれて死んだ人々を』

傾斜した船から落ちて、沈んでいく沢山の黒こげ死体

『もっと救えました』

『ああ』

頷く

『強くなってください。中佐は士官なのですから、ましてや艦長となられるならば』

『勝手な事を言う』

彼女の顔を見つめる

『では、強くなるために、俺の女になってくれるか?』

『な゛っ!?』

中尉は絶句した。そりゃ予想外だったろう

『まぁ冗『いいでしょう、私で良いのでしたら』

・・・はい?えーっと、なんだ・・・まいった、これは頭に無かったぞ(汗)

『は、ははは』

どうしよう






ハワイ・パールハーバー




太平洋戦争に於ける講和条約であるサンフランシスコ講和条約、その時の条文により工廠施設を始めとして軍事施設を全撤去したハワイは、よく外交交渉の場として利用されて来た

『まったく、ろくな話じゃないな』

『ろくでもない事態が起きてしまったのですから、仕方ありますまい』

日英両国の情報員は街の明かりを橋から眺めながら語り合う

『北半球での冷害による穀物生産の低下、これだけなら特に問題は無いのですがね』

満州国や北アイルランドが勢力圏内にある両国だ、寒冷地タイプの穀物生産に問題は無い

『貴国はタイとフィリピンの面倒を診るだけで良い』

オランダはインドネシアの一億人、フランスはインドシナの八千万人を維持しなくてはならない。イギリスもインド東部の人間を維持する必要があった

『だからといって、負ける事を前提とした出来レースの戦争の話を持って来るのはどうなのかな?』

日本側情報員が言った言葉に、英国側はフフンと笑った

『我々が指導力を発揮して、ただで撤退されても困るでしょう?』


『それは確かに、だから此処に私がいるわけです』

概算で三億人の人間の食いぶちを用意するなんてまっぴらだ。せめていくらか減らしておきたい・・・少なくとも食糧配給を怠るだけの理由を持った事態を引き起こしておきたい、それが両大国の意思だった

『グダグダと戦争をしましょう。お互いの為に』

『調律された闘争という訳だな。ま、仕方ないな』

これから死ぬ人間には申し訳の無いことだが、覇権国家とはそういうものだ

『そうはいいますが、既に戦時に向けて若い士官を艦長職に就ける前例を作ったと聞きますが?』

『いやいや、彼は英雄です。彼を讃えずして誰を讃えよというのか』

二人の情報員は、互いに限定的な情報を意図的に漏らしながら人込みの中に消えていった




そして物語は最初の場面へ、インド洋へとうつろい行く

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