21st Lift(第21話)
題名書くのめんど(略
2002年2月17日・五島列島沖合い、よいまちづき
長崎ドックでの修理を終えたよいまちづきは波を蹴立てて進む
『改悪とばかり思っていたが、必ずしもそういう訳でもない、か』
永野は艦の動きをCICでトレースして呟いた。アイギスシステムを抜いた事で艦橋が軽くなった分、重心が下がって運動性が向上したのだ。これならば砲弾を掻い潜るのもやりやすくなるだろう・・・掻い潜りたくはないが
『新型の射撃管制システムはどうか?』
艦ごとにこういったレーダー機器には癖がでる。というより、製品にはよりよいものを、と、細部にまで手を加えようとする日本人気質からという物に近いか
『問題ありません、さすがにアイギス程ではありませんし』
『アイギスは捉えたクラッターの処理に癖がそれぞれありますからね』
砲雷長と鷹野一水が答える。いままでアイギスにかかわってきた彼らだ、新鋭とはいえ汎用駆逐艦用のそれよりはシステム運用は楽と感じるようだ
『しかし、戦時にこんなまともな公試がやれるとは思いませんでしたな』
『新大陸連合が対英宣戦したからな』
米国は六隻の戦艦と四隻の空母を持ち、南米は改修が少ないとはいえ戦艦が三隻、唯一英仏寄りのブラジルが落ちるのも時間の問題といわれている
『とはいえ、米国内部はガタガタになってしまっている。どう転ぶか』
東海岸の企業(ほぼ英資本)は軒並みこの戦争に介入反対とデモやストライキを続けている。逮捕などはしていない。彼らは技術者だ、彼らが抜けられたら産業そのものが停止してしまう
『火事場泥棒もいいところなのもいただけませんね』
こちらの世論も現米政権には不快感を示している。西海岸の企業(ほぼ日本資本)でもストが出たらどうするつもりなのだろうか?
『ま、おかげさまで戦局は一気に安定したのは確かだがな』
永野はそれで話を切り上げた。彼が所属する予定の戦隊が近づいてきたからだ。第36強襲戦隊、それがよいまちづきが現在所属する新設の戦隊だった
『東シベリア共和国海軍のアドミラル・ミシェルキン他四隻と、大韓帝国海軍のウルサン、サチョン。そして我が海軍の飛鳥と斑鳩です!』
飛鳥と斑鳩にマーキングされたSCSの記号を見て、永野は唸る。まさか完成させていたとはおもわなんだ
『制海艦構想はコストパフォーマンスに合わないという事で凍結されていたはずですが』
砲雷長が静かに聞いてきた
『試験艦だろうよ』
何故二隻もあるのかが疑問だが
『戦隊司令部から連絡です!』
『回せ』
ちなみに戦隊司令部は飛鳥に置かれている。しばらくして回線のつながった受話器を渡される
『よいまちづき艦長の永野です』
『戦隊司令の鬼無里です。少将をしております』
受話器からは比較的わかめの声が響いた
『いま、そちらにこの艦の性能諸元を送りました』
受話器を手で抑える
『データをモニターに』
『わかりました』
出てきた諸元と図に絶句した。満載9999トンというのもギリギリきつきつにまとめたという事を示しているが、飛行甲板の前端中央部に五インチ速射砲がデンッと乗っかっており、後端右舷にも筐架によってテセオ社のSSMが八発置かれており、艦橋のすぐ後ろにはSAMVLSが埋め込んである・・・な、なんじゃこりゃあ!
『空母と名指しされぬよう砲兵装やらを搭載し、艦載機の運用能力を出来る限り損なわぬよう、しかし条約に抵触しないよう9999トンに抑えた結果がこれだよ』
VSTOLでしか発艦出来ないので機体の搭載能力も限定されるおまけつきでな
『搭載できる宸雷は6機、ヘリなら9機。二隻は無いと戦力単位としても使いづらいという事でこの艦と斑鳩は造られた。結果は見えていたがな』
そして海軍は二隻をひた隠しにした。あまりの駄っ作ぷりに
『まるで鵺ですな』
様々な要素が組み合わさった鋼鉄のキメラ
『だが、封じられたままであったはずのこの二隻にも活躍の場が与えられた。貴艦のおかげでな』
マレーシアラインの再度の突破が、この第36強襲戦隊には科せられている。その任に彼女二人は適当であると判断された
『・・・ハルマヘラ島沖海戦よ、もう一度、ですか』
『そうだ』
前回の海戦で戦局を大きく変化させた宸雷の特攻、それと同様の事を期待しているのだ。寺津中将は
『敵本隊は中将旗下の主力が手合せする。貴艦を除いた我々は、海峡を守備しているだろう脅威の排除が第一の任務だ』
そしてその最大脅威とは、増波されたとされる
『サイクロプス』
『ああ。我々にとって最大の脅威であるあれは、防空火力の点に於いて先の海戦の戦艦よりずっと劣り、防御も薄い』
飛鳥級が投げ掛けられる航空戦力でもかろうじて意味を為せる。ここで使わねば二度と活躍のチャンスはあるまい
『貴艦は必ずインド洋に送り届けるよ、永野中佐』
『ありがとうございます、鬼無里少将』
それで通信は切れた
・・・信頼できる相手のように思えるが、戦隊の構成が構成だからどこまでやれるか
『公試に引き続き戦隊の連携訓練に移る。艦を斑鳩の後方につけよ』
いや、本艦もどこまでやれるかどうか
『・・・少し作業甲板に行ってきます。砲雷長、任せる』
本艦が果たすべき役割の一番大事な部分を見ておくべきか
『わかりました。指揮を預かります・・・彼女とイチャイチャしてきてください』
『砲雷長、減棒な』
・・・一言多いんだよ、まったく!
水中戦闘機とも称される海燕改の作業スペースへと足を向ける・・・全ては彼女にかかっているのだった