Seventeenth Lift(第17話)
何度でも言おう、敵は強いのだ。敵は強い。楽になぞ勝たせてもらえるものか
2002年1月19日・ロードス島沖
『気にくわねぇな』
グランチェスカはレーダー画面を眺めながら呟いた。敵はギリシャ沖から航空攻撃など、俺たちを消耗させるべく動くのがグランチェスカらの予想であった。それが無い
『今更俺たちを舐めるような状況じゃあるまい。何か変だ』
昼間砲戦を敵が選択したのも同じく異常だ。いくらレーダーが発達したとはいえ、単艦の攻撃力では劣る彼女らが採るべきは接近戦。そのためには夜の闇を纏うのが定法
『アル、何かがおかしいぞ。何かをライミーは企んでやがる。だが、何かがわからん!』
いやいや、そういうのを明確に言及しちゃいかんでしょ、艦隊司令が
『そりゃあ企みましょうよ』
アルは肩をすくめて苦笑する。企んで当然、英国人だもの
『しかし、我々はニュータイプでもエスパーでもありません』
『・・・いまさら、だな』
ちと、気が昂ぶり過ぎているようだ。イタリアでは大規模な海戦は四半世紀以上もの間行われていない。考えてみれば初陣も同じか・・・
『やってみるしか無い』
グランチェスカに頷くアル。もうここまで来たらやるしかない
『敵艦隊との距離は65キロほどだったな』
具体的な戦術案を提示する頃合いか。こちらの18in砲が最大射程で60キロほど、その八割が有効砲戦距離と考えれば、まだまだ時間はある
『敵は同航戦を選択するようですね、現在回頭中です』
まぁ、スエズ運河への突入阻止が目的だから食い下がらなきゃならないわけだ、当然
『俺ならT字を選択するがな』
グランチェスカは吐き捨てる。それなら接近と投射弾量、どちらもが果たせるが
『好都合でしょう。敵も戦艦を失うリスクは犯せないという現実の現れではないでしょうか?』
ラッキーヒットでもでない限りは
『・・・』
グランチェスカはどうしても引っ掛かった。あまりにもオーソドックス過ぎる。これではまるで、敵はこちらの艦隊よりも砲力に優るかのような
『っ!?対砲レーダーに感!敵艦発砲!』
ムッソリーニのCICがその報告に凍り付いた
デューク・オブ・ヨークCIC
もし、現在英地中海艦隊が採っている戦術がオーソドックスであるかどうかを問われれば、彼はこう答えたであろう。『イエス』と
そして、自軍の砲力が敵軍より優っているかと問われれば、彼はまたこう答えるだろう。『イエス』と
『さぞ面食らっておるでしょうな、イタリアの連中』
参謀が楽しげに笑う
『14in砲艦で18in砲艦に勝とうなぞ、並大抵の事では出きんからな』
そう、並大抵の事はしていない。まず、陣形。お互いの艦が300メートルも離れていない。核砲戦が現実に行われかねない今となっては、あり得ない程の近距離である。これだとそれが使われた場合、確実に一隻はやられてしまう
だが、地中海を我らの海と自称する彼の国が、そうそう核に手をつけることは考えにくかった。ならば無視してしまえばいいのだ
『しかし、こちらが14in滑空砲になっていたのに気付かれて無いようだったのは幸いだった』
対策を練られては根底から作戦計画が瓦解する
『しかし、提督のこの発想はどこから』
ふん、と提督と呼ばれる彼は気恥ずかしそうに微笑した
『古くは今はなき故国の火箭、先の大戦ではソ連に使用実績がある。それほど特筆したアイディアではない・・・APSFDSもな』
そう、イタリアンヤマトと戦うにあたって絶対的に足りないのは射程と貫通能力。APSFDSならその双方を満たす能力を発揮できる、勿論デメリットも大きい、まず風に弱い。有翼なのだから当然だ、遠距離での散布界は絶望的なほど広い、それを補うために陣形を核砲弾を敢えて無視して密集したものを採用、一艦のデータを利用しての統制砲撃を行うことで投射量の方を拡充させたのだ
それから、滑空砲化したがために近距離はともかく、中距離での通常砲戦能力は相当落ちたし、APSFDS自体の爆発威力は6in砲弾並みに低下している。が、装甲貫通能力は期待していいため目をつぶった。なにもかも充実させることは出来ない。相手は腐ってもヤマトクラスなのだ。リスクもなしに戦えるわけが無い
『流石は紅提督ですな』
アドミラル・チャイナの名前は伊達ではないということだろう。本人はスエズ運河という門のただの門番さ、としか言わないけれども
『我々は採れるだけのカードを集めて並べた』
後はなるようにしかならない
『さぁ、存分に剣戈を交えようじゃないか。イタリア海軍』
KGV級三姉妹はロードスの海に吠える。その咆哮は鮮烈なるレイピアの突きを繰り出す女騎士に似て、地中海を熱く切り裂いた
感想評価をお待ちしております。やっとまともに戦艦砲戦はじめれた、かな?