Thirteenth Lift(第13話)
産めよ増やせよ地に満てよ
12月8日・長崎
よいまちづきは傷付いた身体をドックに入れ、その傷を癒していた。長崎に入ったのは佐世保が第三艦隊の他の艦で埋まったからである(大まかに呉と大神は第一艦隊、舞鶴は第四艦隊、第二艦隊が横須賀と神戸、第六艦隊が大湊を管轄分けして使っている)
『ふぅ』
月海は海沿いの喫茶店でコーヒーを飲んでいた。ちなみに、アフリカの解放がろくになされていないので、キリマンジャロが一番高いし紅茶も割高である。今の所敵を飲む、という意味で、高くても紅茶を頼む人が結構いるそうである
『なんでこうなっちゃうかなぁ・・・』
ため息しか出ない。よいまちづきは長崎にドック入りした。そして長崎は海軍港区では無く商用港であるため、余程の事でない限り撮影等を禁止にすることが難しい
『あらー、海軍さんは大丈夫なのかしら?』
『すごいわよねぇ、ぽっきりよぽっきり』
今入ってきた主婦の二人組がよいまちづきの入ったドックを見ながらそんな会話をしている。そう、よいまちづきの傷付いた姿は全国にテレビ報道された
『勝ったらしいけど、あれじゃかなり死んでるわよねぇ』
『こわいわねー、何処まで戦うのかしら?』
終わりが見えない戦いが人心を不安にさせる。それは私も変わらないんだけど
『あんなの見ちゃったから私、昨日の夜夫におねだりしちゃったわ』
『あらあら、ごちそうさま』
思わずコーヒーを吹き出しそうになるのを我慢して飲み干す
『でも、兵隊さん達も発散しなきゃやってられないでしょうねぇ、うふふ』
『こらこら、んー。でも死んじゃったら終わりですものねぇ』
死んだら終わり。そう、確かにそうだ、だったら・・・私は
首相官邸
『第三艦隊は一連の海戦でかなりの損害を受けたと聞きます』
『は、我が海軍の艦艇だけでも巡洋艦1隻とアイギス艦5隻を失っております』
大日本帝國の議会の長である首相の西田は、秘書官に椅子に座りながら聞いた。彼は高官でありながら、一切ソファーには座らない事で有名である
『海軍大臣から聞いた話に私が乗ったのが不思議なのでしょう?』
秘書は質問しようと思っていた事を先に言われてたじろぐ
『はい、閣下は私が言うのも違う気がいたしますが、政治家としても人間としても清廉な方です』
戦時内閣設立という理由で倒閣されるとしても、軍の言う赤道直下の国々の支援を行わないための戦争など
『彼等の言も正しくはある。数億の民草の食いぶち、養いきれるものでは無い。連合国側も同じくな』
西田は瞑目して言う
『君は、この国の出生率を知っていますか』
『確か、1.2人から低下中と聞き及んでいます』
頷く西田
『先進国とされる国に巣くう避けられぬ病苦です。人が安楽に生きすぎた罰とでもいうべきものなのかもしれません。ですが、戦いの風はその安楽を脅かす事でしょう』
傷がついた柿木が、その年の秋に沢山の実を実らせるように
『人生八十年。生まれた子らは、この国の百年を支えてくれるであろう。始まる事が決まっておる戦火で、軍が民草を刈り取るならば、我々は種を撒かねばならない』
その仕事だけは、欲の強いものがしてはならない。民は知らずとも実状を感じ取る、それは出生率を間違いなく下げる要因となるであろう
『故に御自身が汚れなさると?』
『それが政治家としての本望でしょう』
国家の為に身を尽くす。実に名誉ではないですか!と、西田は明瞭快活に笑う
『閣下・・・』
今この時期に西田という首相を持てた事は、日本にとって幸せな事なのかもしれなかった
スペイン・総統府
『あら残念』
裸シャツのままで、ファン・幽花は報告書を読みながら呟いた
『ありがと、下がりなさい』
報告書には日本のティモール島攻略作戦が失敗に終わったと言う事が書いてあった。もう少しで隣の国がもがき苦しむ姿が見れたのに、残念残念
『うりうり』
仕方ないのでベッドで干からびてる夫のリグルを指でぐりぐり弄る。本来ならオランダ領西ティモールが落とされて、戦争難民が東ティモールへなだれ込んでいたからだ
日本はティモールの民衆をオランダから解放するつもりも、維持の為に戦力を配置するつもりも無かった。全ては中立国であるポルトガルに押し付ける算段であったのだ。そのためにはポルトガルの中立がなくてはならなかった、そのために彼等はポルトガルに存在を許した。今後もそうだろう
『ふふふ、好きよ』
そういうのは大好き、いじめていじめて、いじめぬかなくちゃ
『だーいすき♪』
再び幽花は捕食を始めた。大規模な世界状況の変革はありえない、これは壮大な戦争ごっこなのだから。だったら楽しみましょ?
愉快な人間の自殺劇を
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