Eleventh Lift(第十一話)
貴方とお茶を
『各艦、弓を放て』
後にハルマヘラ島沖海戦と名付けられる海戦は、このみつづきからの一声から始まったとされる。アイギス艦10隻、80発の対艦ミサイルの発射、そのただ中によいまちづきは居た
よいまちづきCIC
モニターには各艦の放った対艦ミサイルの航跡を示している
『これで我々の対艦攻撃能力はほぼ無くなった』
あるのは魚雷8発にパラシュート降下のVLA、とても攻撃力とはよべる物ではないし、それの攻撃が可能な距離では、既に砲弾が降って来ている
『たしか、最低でも命中確率が発生するのが、6発、だったわね』
その言葉を口にした人物を永野は見て、少し驚く。月海だった
『なによ?』
『いや、なんでもない。奇跡的な命中率でも命中するのは、13発。』
そう話している間にも、英蘭艦隊の迎撃によってミサイルは減っていく。
『話半分の半分かな』
勿論端数は切り捨て、3発となると
『敵艦2隻に命中弾!1隻は行き足止まります!』
ミサイルを示す光点と重なった敵艦を示すシンボルが1隻、その移動速度を落としている。こいつは殺ったな
『さて、きつい返しがくるぞ』
一体何倍返しになるか
『艦長!!!』
対砲レーダーの要員が振り返る。22個の波紋が表されている。艦首部にある主砲の斉発、インドシナ方面に行ったリシュリュー級でなくてよかった。あれだったら、さらに砲弾が増えていた筈だ
『ダンスを始める、航海長!』
艦橋への回線をつなぐ。此処で砲弾の落着地点を見ながら操舵するのは、艦長は艦橋にいて要員に報告させる、オールウェイズオンデッキの我が海軍の伝統には反するが、自分としては伝達が悪かったせいで被弾した。としないように、ここで指揮した方がいい・・・いや、怖いのだ。砲煙弾雨の海上を、この目で直接見るのが
『足を踏まぬよう願います』
僚艦のシンボルを言われて確認する。うん。全速力で走り回るにはちと狭いが、幅はある。ありがとう航海長
ぶるぶるぶるっ
『あ・・・』
月海は永野の手が震えているのを目撃した
『運動は舵をなるべく切らない形で突き進む!敵随伴艦艇の射程に入ったら、6in以下の砲弾はデータから除去!魚雷発射管をホットに!発射タイミングはこちらで測る!』
一発で大損害を受けかねない8in以上の砲弾だけ対応する。でなきゃ、すぐ飽和してしまうだろう
『断じて行えば鬼神もこれを避く!チャンスは奴らの足元にある!』
そこで永野は言葉を切った
『諸君!生き残るぞ!』
同刻・コンカラー
『たいした馬鹿どもだ』
フルトナーは毒づいた。被弾したのは2隻ともオランダ海軍の駆逐艦だった。これほどの恥辱は無い、英艦にくらべて対空能力が低いと喧伝しているようなものだ。払拭するためには完膚なきまでに叩き潰すしかあるまい
『・・・どうした。英海軍は見敵必殺が信条だろう?猟犬が前に出ずどうする』
随伴する英海軍の巡洋艦戦隊、重巡のマルス、フォボス、ダイモス、そして大型軽巡のスウィフトシュア、ミノトー、ホークの6艦からなる戦隊を顎でさす
『お待ち下さい!随伴を減らすのはまだ早過ぎます!』
幕僚が食い下がる
『敵は随伴艦へむけ対艦ミサイルを放ちました。これは何らかの攻撃準備かもしれません!せめて本隊の艦砲で露払いをしてのちに・・・!』
やられ始めてからの小細工は難しい、精神的にもそうだ。そして、敵は撤退するはずが突っ込んで来ている。この差異は大きい
『ティータイムを提案致します』
『君は何を言っているのかね!』
フルトナーは激情した。こんな時にお茶をよこすなぞ、わしを馬鹿にしているのか!
『主計に既に用意させております。セイロン産の極上品で、飲む前に一分間蒸らすと味が』
『もうよい!CICに下がりたまえ!巡洋艦戦隊前進!』
これだからブリテンは!
『・・・下がります』
こう言われては、幕僚も引き下がるしか無い。艦橋から出て、彼はため息をついた
『ペンウッド提督であれば、違っただろう』
しかし・・・
『提督、貴方はわかっているのですか?ご自身が一分間も待てない程焦ってらっしゃるということに』
『ちぃっ!おっぱじまってやがったか!』
開けたままの回線ががなり立てている。状況は明らかに俺達側に良くない
ゴォオオオオオ!
9機の機影が黒に近い海の色の宙に浮かんでいる。寺津中将が要請したそれ、第四艦隊所属の着上陸支援用戦闘攻撃機宸雷だ、V/STOL機能を持ち、それなりの積載量を確保できるこの機体。鈴蘭の呼び名は製作した会社である九州・ベル飛行機の社章である鈴蘭に由来する
《最後の増槽を捨てたら、ラストスパートだ!きっちりデリバリーすんぞてめぇら!》今回のオーダーは特別オーダー、パイロンにはオイル満タンの増槽のみを積んで来た
《ちんたら飛ぶのも飽きましたしね!》
敵アイギス、或いはAEWやAWACSに引っ掛からぬよう、海面スレスレを速度を出さずゆっくりと飛んで来た。コースもハルマヘラ島の影に入るよう念入りに計算して、だ
だから、彼等は英蘭艦隊に突入する直前まで気が付かれなかった。そして幸いなことに、彼等の傍にいるべき随伴の巡洋艦は、傍を外れていた
『こいつぁ幸先の良い!前進部隊の連中、やるじゃねぇか!これは負けてられねぇなっ!』
機首を敵戦艦へと向ける。目指すは一箇所しかない
ギュオゥ!
対空砲火を見計らって無理矢理ノズルを横にし、敵弾を回避する。しかし2機の宸雷が、回避が遅れて爆散する。流石は戦艦の対空砲火、奇襲を受けて初っ端からこれかよ、だが!
『もう遅い!』
ミサイルなんて積んじゃいない、代わりに積んでた燃料もすっからかん。機銃弾なんて重たいもんも積んじゃあいない。だったらやることは一つしかない
《機体は所詮消耗品ってな!全機イジェークト!!!》
射出装置のレバーを引く。ボルトが小爆発を起こして弾け飛び、キャノピーが外れると同時に空中へ座席は導かれる。そして操縦者を失った宸雷は、若干機首を下げながら敵戦艦の艦橋へ
ドゴォッ!!!
直前で更に2機食われたものの、各戦艦にそれぞれ突入する事に成功する。火災や爆発は生じない、生じるものが無いからだ。ただ、その質量は物を壊す事ができる
『へっへぇ、してやったぜ!』
中指を立てて空中で笑う、これであいつらは遠距離砲戦能力を低下させた。それが意味する事は
ザバババババ!!!
コンカラーらの周囲に、水柱が上がる
『待たせたな、前進部隊の諸君』
寺津はそういうと、不敵に微笑んだ。長門の最大戦速、28ノットで駆け抜けた甲斐があるというもの
『さて、どうでる英軍!』
海戦を続けるのか続けぬのか!
海戦は新たな局面を迎える。狩り立てる側から狩り立てられる側に、最後に立っているのは英蘭か、それとも日本か、ハルマヘラ島沖海戦は、そのクライマックスを迎えようとしていた
ここまで読んだ人、さぁご一緒に、オメェーガ11イジェークト!