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Nineth Lift(第九話)

─生き残れ─

2001年11月21日・沖縄沖、いまちづき艦長室




『出血点』

『はい?』

永野の言葉に、月海は首を傾げた。部屋に戻って来ていきなり何を言ってるのこいつ

『この戦争で何が必要とされているかを考えてみたんだ。少し付き合ってくれ』

『・・・従兵として、でしょうか?』

ちなみに遊兵になってしまった月海だが、出撃までの時間が短かった為、永野の従兵としてよいまちづきのクルーになっていた・・・傍からみたら、愛人?

『聞いているだけでいい』

永野は執務机の椅子に座り、月海にはベッドに座るよう手で射す

『衛星の観測で、敵はインド洋の東洋艦隊から相当の増援を得た事が把握されている。具体的に言えばライオン級の五隻、な』

『リシュリュー級やネデリンデンと合わせて八隻になったわけね』

頷く永野

『敵はそれを二分した。一つはタイ陸軍のフランス領インドシナ進攻阻止と、その支援にやってくるかもしれない我々の阻止の為に。そしてもう一つはハルマヘラ島周辺からの、我々の進攻阻止する為だ』

月海は首を傾げた

『なんだ?気になったら好きに言ってくれ』

『ハルマヘラ島とか含めてこのあたりの島って、正直聞かない場所だけどさぁ、攻める価値あんの?』

・・・根本的なとこから聞いてくるなぁ、だが、逆にいいか

『ハルマヘラ島周辺の諸島は美しいだけで、なにもない・・・という訳でもないが、油田とかで有名なボルネオ島らに比べればそう言える。ピナツボ火山の噴火後は食料生産量も下落してなおさら、だ』

『でも、その価値の無いとこを。西ティモールだっけ?うちは取ろうとしてるよね?』

敵はわかるのよ、海峡を抜けて好き勝手やられたらたまらないもの。でも、私達にとっては違う

『無理に戦う必要は無いんじゃない?それこそタイ支援に敵艦隊の撃破に向かった方が確実でしょう?』

永野は頷いた

『そう、それがオーソドックスな戦術だろうね。敵は我々だけでなく他の方面に目を向ける必要がある、そこを横合いからぶん殴る。実にオーソドックスだ』

月海の顔が真っ赤に変わる

『ちょっと!オーソドックスオーソドックスって、私をおちょくってるわけ!?』

『違う違う、それが最良なんだ。だから、それをしていないというのが問題になってくるんだよ』

両手を横に振って宥めながら永野は言う

『で、俺はここを出血点にするつもりじゃないかとかんがえたんだ』

俺達第三艦隊は敵よりも兵器の質量共に落ちるようになった

『敵は今なら間違いなく俺達を撃破出来る。だから、機会があれば間違いなく狙ってくる』

後はそれを凌げば良い、最悪同数の被撃沈を続ければ敵の戦力は枯渇する

『・・・それって、めっちゃ私達大変じゃない?』

不利なまま戦い続けなきゃならないんだから

『そう、だから当然損害が出る。しかし、そうでなくては敵が積極的に出て来る理由がなくなる』

『・・・うっわ、最悪』

そりゃ戦法としては正しいかもしれないけどさ、実際戦ってる私達の命は一つしかないわけで

『一応この艦はアイギス、防空艦だからこの前のようにきったはったの水上砲戦をやるはめにはそうそうならんよ』

それに次は戦艦付きだ。俺達はプリマでは無い。それだけでも生存率が上がる

『形勢次第では水上砲戦になるまえに撤退が決まる可能性だってある。一発も撃たずに済む可能性も、な』

『楽観的なのね』

呆れた風に月海は答えた

『・・・そうでもなきゃやってられん』

編成上よいまちづきは僚艦を失ったままであり、鬼子である。実際の所、何処に投入されるか解ったものでは無い。

『なにはともあれ、生き残らなきゃなんにもならん。だが、我々には作戦を変えるような力も無ければ権力も無い、それだけは確かだ』

『な、なによ?』

月海を見つめ、よいまちづきの乗員達の事を考える

『どうにかしなきゃならんが・・・すまない』

死なせるわけにはいかんよな、うん。だが、確実にそれを避けれそうな手は一つも浮かばない

『それが出来てたらあんた自身が第三艦隊になんていない。そうでしょ?』

月海はニカッと笑う、その笑顔が永野の思考を停止させた

『そう、だな』

人は出来る事しかできない、それ以上を求めた時に破綻が訪れるのだ。今は、まだ待つしかない。何かが出来る、その時まで






2001年11月24日、ハルマヘラ島上空




《こちらSt-201(空母薩摩所属・第二戦闘機中隊)リーダー、ハルマヘラ島上空に差し掛かる》

《ロージャ、St-201リーダー、先行せよ。蜂の巣をつつけ》

管制の崔雲から指示が下りる。雲量は2、快晴といっていい。電波状況が少し気になるノイズを孕むぐらいで、戦闘には問題無い《各機、聞いたな?事前の打ち合わせ通りだ》

全機がバンクをうって答える。

『さて、どいつが出て来るか』

無線を切って呟く、オランダのヤクトフォッカーか、イギリスのハルピュイアか。



余談だが、ソ連のYak社がフォッカー社に合併されて出来た(ドイツ系の社員が、社名のYakをヤークトに変えた)ヤクトフォッカー社の機体は迎撃性能に優れる。インドネシア配備のおおよそはフォッカーXXIX(29型)であった

ちなみにハルピュイアはラファールに影響を受けた艦載型タイフーン改修の事である



《迎撃に上がる敵機を捕捉した。基地航空隊だ》

つまり、敵はヤクトフォッカーというわけだ

《各機、轡を重ねよ》

薩摩戦闘機隊は部隊章の重ね轡(さすがに本家の轡十字は気が引けたため、新納家の家門の意匠を受けたのだ。轡十字だと射的の的っぽいというのもあったが)にかこつけて戦闘開始の言葉を吐く。轡を重ねる、つまり敵に照準を合わせるという意味を持たせたわけだ

《撃ち方始め!》

一斉に各機から長距離対空ミサイル、鳳凰が放たれる。性能自体は新型の飛鳥や、敵のミーティアより劣るが、射程に関してだけは未だ世界一だ

『槍合わせを四合、頭は押さえさせて貰うぜ!』

砕風は鳳凰を六発搭載できるが、それだと中近距離で使えるミサイルがなくなるので、四発搭載でのソーティがデフォルトであった。それで、四合。

ECMを始めとして撃たれた方は何らかの防御措置、特に回避行動等を行わなければならないため、必然として敵は運動エネルギーを失う。そこに上から覆いかぶさってやるのだ。まさに弾幕はパワーだぜ!

《命中3!突入!突入!突入!敵はさらに戦力を投入中、乱戦に持ち込め!増援をすぐによこす!》

9機四発、36発撃って撃墜が3、命中率は8%弱、そこそこだな

『回避ご苦労、そしてさよならだ』

この圧倒的な位置取りが取れるのを加味するならば



ヴォッ!



回避運動で運動及び位置エネルギーを失った敵の機体に、25ミリ機銃を叩き込む。翼を叩き折られた機体はキリモミしながら落ちていった




同刻、AEW崔雲




『薩摩戦闘機隊が交戦中』

タクティカルオペレーターがモニターを見ながら報告する

『何機投入できている』

『三個中隊、27機です。中隊ごとに槍合わせで牽制しつつ逐次投入。一個中隊が本機の護衛に』

タクティカルオペレーターのリーダーは嘆息した

『そこまで艦名に合わせなくともよかろうに』

薩摩の砕風は残り四個中隊、モニターと武装のオーダーを確認して確信する。これはあれだ

『交戦中の中隊をあまり被害が出る前に退かせろ』

『今退かせたら阻止になりませんが?』

寡少な戦果に及び腰の攻撃では、相手を勢いづかせるだけにならないか

『構わん。集まればよい』

『は、はぁ・・・』

意味が解らないが、何か策があるのか

『釣り野伏を現代戦、しかも空戦でやるか、普通。まったく、度し難い連中だよ』




追撃に移った敵の迎撃部隊に、216発の長距離対空ミサイルが襲いかかったのは、それから10分後の事だった





長門・CIC




『まずは重畳、といったところか』

敵の第一次のファイタースイープは失敗に終わった。こちらが砕風の6機を失い、敵は41機を失った。まぁ、一気に自艦の機を出し過ぎた薩摩は作戦能力が一時的に落ちてしまったが、信濃の艦載機は艦隊上空の直掩で温存している状態にある。なにも問題はなかった

『本作戦に於いては、航空優勢の可否が大きく係わる。薩摩の働きは実に大儀』

『伝えておきましょう』

寺津の言葉に、傍らの幕僚が頷いた

『敵の空母は四隻、この周辺の敵航空戦力を含めれば400機程、また幾度かは厳しい戦いを強いるな』

死んでいく将兵にはいずれ報いねばなるまい

『ん?』

CICの対空モニターから、味方の機影の一つが掻き消えた

『何事か!』

敵は近くにいなかったはず

『現在信濃に問い合わせ中です・・・な、なに!?』

オペレーターが驚愕する。その間にも再び何機かが消える

『対空警戒!スティルスか!?』

『違います!これは・・・!』

オペレーターがあまりの事態に絶句するが、そうしていても何の解決にもならない

『上空で大規模なセントエルモの火が発生しています!』

火山性の細かな粒子が帯流していて、そこを直掩の信濃戦闘機隊が同じ空域で掻き回した結果、たまった静電気が一気にバーストした。というのは戦後の調査で判明した事である

『セントエルモ・・・馬鹿な!そんな事があってたまるか!』

幕僚達が青ざめる。航空優勢があってこその本作戦、というのはさっき寺津中将が言った通りだ

『航空隊の被害極限を最優先、かかれ!』

寺津が叫ぶ。予想外の事は起こるものだ

『しかし閣下、これでは・・・』

たとえ機体や乗員を救えたとしても、とても作戦を継続出来る状況ではない。

『我が艦隊に所属するアイギスの全てを前進配置、限定的な防御スクリーンとする』

『閣下!』

先の海戦で2隻のアイギスを我々は失っている。ここでまた大きな損害を受けたならば、この第三艦隊は防空能力に大きな穴を生じさせることになる。勝っても負けてもだ

『・・・』

寺津は幕僚に何も答えず、各艦の名前が映し出されているモニターを睨みつけて呟いた

『矛盾、か』盾を矛の前に晒す。これほど現状を正しく表した言葉は無い








戦いは予期せぬ事態により困難さを増し、第三艦隊を苦しめる。よいまちづきは果たして生き残る事が出来るのか。モルッカ海峡波高し!

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