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Seventh Lift(第七話)

戦力をすり潰すというのは簡単だ、当事者でないのであらば

『第61駆逐隊には予定通り撤退していただきたい』

ようやくの撤退命令に心中では喝采をあげつつも、永野はバヤン少将の言ったフレーズの一カ所が引っ掛かった。第61駆逐隊には、の、にはってなんだ。まるで

『我が艦隊はこのまま南下、ジャカルタ砲撃を行う』

バヤン少将は静かにいったが、内容は無茶苦茶だ!

『ジャカルタに攻撃をかけるとなると、貴艦隊の撤退に支障をきたすと思われますが』

あんたらは一体どうするんだ、という内容を、当たり障り無く言ってみる

『我々に撤退の意志は無い。援護は不要である』

『そんな!』

死ぬつもりか!こんな所に残ってなんになる。まだ戦いは始まったばかりなんだぞ!?

『・・・我が国は、既に食糧貯蓄が尽きつつある』

『・・・っ!いや、だからといって』

とんでもない事を聞かされたが、今のこれとは関係ないだろう!

『我々は証明せねばならない。我々タイ王国軍は、大日本帝國の為に命をなげうつ事を厭わぬという事を、な』

そしてそれを、いくらでも逃げ場(帝國海軍の根拠地にいれば、食糧くらいはどうにでもなる)海軍の我々が、だ

『宣戦布告を受けてより、我々はもとより生きて帰る気はない』

『・・・』

そんな馬鹿な、ああそうか、だから寺津中将はあんな発光信号を

『ここからは我々の戦いだ。付き合う必要はカケラも無い』

当然だ、そんなもんに付き合うつもりなんぞ

『そうは参りませんな、付き合いましょう』

『っ!?』

みつづきの艦長は一体何を言っているんだ!

『本艦は一軸を失って速力を発揮出来ない。撤退には足手まといになるだけだ』

『・・・すまない』

永野は顔を引き攣らせた。また、また逃げろというのか、俺だけ

『みつづき、どうにかならないのですか?』

『無理だ、スクリューの羽根が全て吹き飛んでいる』

片軸推進なのをまっすぐ進ませる為には、舵を大きくきっての航行を余儀なくされる。ろくな速度なぞ出しようがない

『貴艦にはSSTOの乗員が乗っていたはずだ、構うことは無い。彼等を死地から救ってやってくれ』

足が震えた。なんでこんな、なんでこんな目に俺ばかり

『よいまちづき、離脱します・・・ご武運を』

『君もな』

隊内通信は途切れた




同刻・仏蘭合同艦隊




『サイクロプスが敗れただと!?』

離脱した蘭海軍の駆逐艦からの連絡が、リシュリュー座乗のリュフェック大将の耳に入ったのはこの時であった。

『ライミーめ、つくづく使えぬ!』

リュフェックは拳をにぎりしめた

『司令、K・ネデリンデンからです』

蘭艦隊の旗艦からだ、邪険には出来ない。怒気を払ってから受話装置を取る

『単刀直入に言わせてもらうと、本艦をジャカルタに帰還させていただきたい』K・ネデリンデン座乗のフルトナー中将は本題を先に口にした

『我々だけで敵艦隊と戦えと?』

敵の第三艦隊をみすみす逃す結果になる。戦艦の差で二倍、簡単な方程式に当て嵌めて考えれば、こっちが敵の一隻沈めてる間に全滅する

『ジャカルタの政庁舎を失えば、我々の統治能力を疑う連中も出て来るでしょう。昨今の食糧不足で、我々の足元はぐらついております』

暴徒化した民衆、純粋なオランダ人は少数派にしか過ぎない

『インドネシアを失えば、フランスインドシナは孤立する。それはフランスも回避したいのでは?』

・・・痛いところを突いてくる

『現状で沈める隻数、その価値、共に我々の方が上回っています。その成果をもって英海軍に』

『ライミーにサイクロプスの換わりを要求できる、か』

代替の戦力投入を拒否するならば、我々も考えねばなるまいが、厭味たっぷりにライミーに説教するのもまた良し、か

『結構。永年の敵である第三艦隊に大打撃を与えるチャンスだったのだがな』

『まだ戦争は始まったばかりです。機会を待ちましょう。蛇のようにね』




第三艦隊主隊、長門




『そうか、バヤン君が逝ったか』

寺津中将は嘆息した

『はい、支隊はよいまちづきを除いて全て撃沈との事』

残念だ。しかし、タイの未来を考えればそうするしかなかったのであろう

『見事、意地を通したな。ある種羨ましくもある』

よく生き、よく死んだ。彼の名はタイ王国の歴史と海軍史書に、永遠に名を遺し続けるだろう

『総員討ち死にではないのが対外的には蛇足とでもいいましょうか。勿論、我が帝國の財産であるアイギス艦を失っても良いという意味ではありませんがね。すり潰し処ではあったはずです』

参謀はよいまちづきの帰還に否定的な意見を述べた

『そう言ってくれるな。生き残るという、我が第三艦隊に必要なスキルを持つ人材ともいえよう。あるいは寺坂吉衛門のような存在、か』

『四十七か、四十六か、で評価がかなり分かれますな。いや、すいません。少なくとも我々がバンダ海を通り、モルッカ海峡を通過できるようにした功労者ですからな』

参謀はアメリカ人のように肩をすくめる

『問題は次、であるが』

寺津中将は参謀にもう喋らなくていいと手で抑え、思考を開始する。タイは間違いなくフランスインドシナへ大攻勢に出るだろう。食糧供給を求めて、より我々に近い港湾施設を必要とするに違いないからだ。火山灰の降灰量から機能不全に陥っている所も少なくないが、物資の集積地であるから、略取にも適している。

だが、これを支援するために戦力は割かない。ここの人間の多さは、フランス側の負担として大きいからだ

『西ティモール』

寺津の頭に浮かび上がったのは、先程傍らを通り過ぎたその地名であった。そこならば蘭領インドネシアに楔を打ち込めるとともに、オーストラリアへの牽制にもよかろう。なによりも、占領するにあたって他の場所に無い利点が一つ存在する。それは・・・





中立という名のトラップ

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