Zero lift(プロローグ)
古来、日本の人々は星の事を筒のようなものと認識していたらしい
『今では筒が、星を狩るモノとなってしまってるがね』
そういっていたあの男も、今この下にいるのだろうか?
《かぐや、聞こえるか?》
《アジスアベバ基地、良く聞こえる》
発射管制を行っているエチオピアの管制官が問いかけて来た
《下はとりあえず無事だ。そのかわり海がかなり騒がしくなってるが、君達のフライトにはもう手出し出来んだろう。さすがは聯合艦隊だな!》
帝國海軍第三艦隊。軽烈度紛争や、戦時第一陣の緊急展開を行う艦隊で、主に旧式艦と同盟国海軍の合同艦隊である。普段は主戦場を南シナ海と設定しているが、今回は大きく外れてインド洋まで進出していた。
《私達が失敗した時、周辺諸国に迷惑かけないように私達を撃墜するための艦隊なんだから、あんまり活躍してもらっても嬉しくないわよ》
死刑執行人がどんな風であるかなんか聞きたくもない
《まあでも、あなたたちの無事が確保出来たんなら、多少は誉めてやらないとかもね》
インド洋はイギリス海軍の天下で、主力の半分近くが居る。少しどころでなく苦労してるだろう
《おお、そういえば。例のロメオも艦隊にいるんだろ?キスの一つくらい》
《かぐや、交信おわり!》
これだからイタリア人は・・・!
インド洋、セイロン島沖
『かぐや、周回軌道に入りました』
『大変結構。いや、しんどい戦をしたな』
第三艦隊に所属するアイギス駆逐艦よいまちづき、その艦体にはいくつかの凹みが発生していた。英海軍の重巡の針路妨害を防ぐべく、鍔ぜり合いをしたためだ
『群司令から通信です』
『繋いでくれ』
傍らのコンソールから受話器を取る
《案外無茶をするタイプだったようだな、君は》
この群を一時的にあずかっている大佐は、感心したような口調でよいまちづきの行動に対する感想を述べた
『プリーズ(お願いします)では、ああいった手合いのあしらいはさせられませんよ』
第三艦隊は各国の連合艦隊であるため、命令するのにいちいちプリーズが要る。それが日本の指揮官達には不評を招いていた。
それに、いざ本格的な戦争となれば緊急展開軍であるがため、おそらく全滅に近い損害を受けるであろう事が予測されていた。事なかれで早く他の艦隊に移りたいという艦長も多数ではないが、少なくない
《そうか、助かるよ。君は第三艦隊に長く居そうだな》
『ありがとうございます』
褒められているのかよくわからないが
《ま、私からの願いとしては、あまり有能でいてくれるな。本土に引き抜かれては元も子もないからな》
手を抜く所は抜けってことか。
『了解』
第二次迎撃の為、ソマリア沖に移動することに二、三言葉を交わした後受話器を置いた
『・・・あいつめ、最後の最後でやらかしてくれるなよ?』
彼が艦と艦との鍔ぜり合いに参加したのは他でも無かった。もしも、の時に撃ちたくなかったからだ
他国の艦にさせたく無いというのは口実にすぎない
『まったく』
CICで空を仰いでも、暗い天井しかみえない。しかしあいつは今、青い星を見ているのだろう。でもま、それでもいいか
『旗艦に続く、英艦隊の動向を常に注意せよ!』
いろいろあるだろうが、全般的に平穏に事態は進むだろう。誰もがそう思っていた。しかし、事態はそう進まなかったのである