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090 怪しい影

「マリアさん、気が付いてる?」

 荒野へ向かう馬車の中でアレンが私に声をかけてきた。

 リヴァスト領に遊びに来て二日目、朝食をとった私たちは全員そろって馬車に揺られている。秘密保持のため、御者をブレンダが務めている。ありがとう、ブレンダ。

 現地までは1時間らしいが、今はまだ出発して30分くらいだな。


「ええ、もちろんです。一定の距離をあけて尾行してくる者が3人ほどいますね。リヴァスト家の影の護衛というわけではないのですか?」

「うん、そんな話は聞いていない。襲撃目的ではなく、情報収集が目的だろうな。どこの手の者なのかは分からないけど」

 馬車の後ろにある小さな小窓からこっそりのぞいても何も見えないのにアレンと私が気付いた理由は、マジックサーチを発動しているからだ。

 私の場合、馬車で移動するときに発動するのが癖になってるんだけど、アレンの場合は全員の安全を考えた上での責任感から発動したのだろう。


 この会話を聞いたほかの皆も不安そうにしている。

「荒野で大規模魔法の発動実験の予定だったけど、目的地を変えて今日はピクニックにするかい?」

 お兄様が提案した。昼食は現地でとる予定なので、お弁当はたくさん持ってきているからね。


「うーん、今日は良くても明日以降の尾行がなくなるかどうかは分からないんですよね」

 私が気付いていながら態度を決めかねていた理由がこれだ。(のぞ)き魔を捕まえたほうが良いんだけど、拘束する名目が無いんだよね。襲ってきてくれれば簡単なんだけど。


「もうすぐ荒野への分岐点に至るよ。このまま曲がらずに進めばピクニックにちょうど良いきれいな丘があるんだけど、どうする?」

「そうですね。今日の実験はあきらめましょう。みんなも良いよね?」

 アレンと私の会話にほっとした様子の友人たちが、口々に同意の意思を示した。

 まぁ尾行をまいたわけではないから引き続き警戒は必要だけどね。

 御者台のブレンダに目的地変更を伝えたけど、馬車の中の会話を聞いていないので疑問符を顔に浮かべている。ごめん、後で説明するよ。


 荒野への分岐点を越えてしばらく進むと確かに美しい丘が現れた。きちんと整備されているのか美しい野の花が咲き乱れている。

「きれい!」

 思わず叫んだのは窓から外を眺めていたロザリーちゃんだ。

 あまり身を乗り出すと危ないよ。


 街道を(はず)れて丘のほうへ進路を向けた馬車はゆるやかな丘を登る。横幅としては馬車一台分くらいの小さな小道が上へと続いているので馬車でも問題ない。頂上付近にある大きな木の下に停車する。

 木の葉で直射日光がさえぎられて良い感じだ。

「ここに来れただけでもリヴァスト領にお招きいただいたかいがありますね」

「マリアさん、ありがとう。ここはうちの領でも自慢の観光スポットなんだ。あ、観光客が見当たらないのは、荒野からの爆発音が聞こえるかもしれないので人払いをしたからだよ」

 そいつは申し訳ない。でも私たちで貸し切り状態だから、マジックサーチでの警戒はしやすいね。


「街道上からは近づいて来ませんね。丘の上までは遮蔽物(しゃへいぶつ)が無いからですかね?」

 街道から丘の頂上までは約100メートルでマジックサーチの探知外になる。特に改良してないので、いまだに70メートルが探知限界なのだ。

 現在マジックサーチには私たちの反応しかない。街道上の並木の陰に隠れているかどうかもここからでは不明だ。


「登ってくれば目視でも確認できるし、そんなに警戒することもないだろうね。でもまぁ、一応定期的にマジックサーチは発動しておこう」

 アレンの言葉に私たちも(うなず)いた。さあ、ピクニックの準備をしよう。

 ちなみに保冷が必要な料理は持ってきていない。夏だからね。お弁当はサンドイッチやからあげ、ウインナーに卵焼きって感じ。おいしそう。

 てか、この世界にもサンドイッチ伯爵がいたのかよ。まぁ多分、過去の転生者の仕業(知識チート)だろうけどね。


 木陰の涼しいところにお弁当を並べたあと、まだ昼食には早い時間なのでお兄様とアレンは剣の稽古、女性陣は花を()んで花冠を作ったりとせっかくの休暇を楽しんだよ。


 昼食が終わり、全員満足した状態で冷たいお茶を飲んでいる。水筒に氷を入れたお茶を入れてきたので、まだ冷えていておいしい。

「ねえ、アイスクリームかプリンでも食べる?」

 私が食べたくなったので、みんなにも聞いてみた。

 お兄様以外の全員は『何言ってるの、大丈夫なの、暑さで脳をやられたの』的な可哀想な子を見るような目で私を見ている。失礼だな。

 ちょこちょこ個別に取り出すのは魔力の無駄なので先に希望を聞いただけなのに。あ、アイテムボックスを知ってるのはお兄様だけだった。ま、いいか。


「私は異次元空間に倉庫を持っていて、そこに色々と収納してるんですよ。で、どうします?アイス?プリン?」

 さらっと流した。いや流れなかった。

「マリアさん、異次元空間って…。うん、僕はアイスが食べたいな」

 さすがはアレン、順応力が半端(はんぱ)ないな。

「マリア、僕もアイスでお願いするよ」

 あきらめた顔でお兄様もリクエストする。すみません、内緒にしてたのに。でもこのメンバーなら教えても良いんじゃないかな。


 ほかのみんなは絶句してしゃべれないので、勝手に7人分のアイスクリームとスプーンを取り出して、全員に配った。

「溶けるから早く食べてね」

 アイスを渡されても呆然と手に持ってるだけなので、食べるように(うなが)す。溶けちゃうからね。


 アイスを食べてクールダウンしたのか、ルーシーちゃんが疑問を呈した。

「マリアちゃん、異次元空間の倉庫というのは魔法陣の魔法ですの?」

「そうだよ。あまりにも複雑な魔法陣だから覚えられないと思ってみんなには明かしてないんだ。秘密にしててごめんね」

 本当は古代語メッセージがメニュー表示されるからだけどね。いまだにローカライズはやってないのだ。面倒くさい。


「まさかそれもマリアちゃんが開発したのですか?」

「いやいや、まさか。魔導書の中にあったんだよ。博物館の魔導書からナタリア先生が見つけて、私にプレゼントしてくれたんだよね」

 うん、嘘はほんの少ししか言っていない。


 ルーシーちゃんの私を見る目がさらに崇拝の度合いを増したような気もするけど、気にしたら負けだ。


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