表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/303

084 戦略級魔法

 詠唱魔法でも魔法陣を使った魔法でも、魔法とは戦闘を有利に進めるための技術だ。つまり、戦術レベルの武力でしかない。

 でも前世では戦略級の武力が存在した。それはなにか?核分裂反応を利用した爆弾(原爆)だ。核融合反応を利用した爆弾(水爆)すら存在した。

 これらは使用することができないがゆえに存在意義が生じているという皮肉な性質を持っている。


 つまり、この兵器を持っている国同士は戦争できない。てか、紛争レベルなら良いけど、全面戦争はできない。核兵器をお互いに使用できないからだ。

 いわゆる冷たい戦争、冷戦になるわけだね。にらみ合いはするけど、手は出せないってことだ。兵器の威力が大きすぎるんだよ。


 一転、今世では銃や大砲は存在しないし、まだ生み出されてもない。いつかは誰かが作るかもしれないけどね。

 戦略級兵器の登場は100年以上無理だろう。


 でも魔法で戦略級の威力を持つものは作れないのだろうか?

 基本的に魔法の威力は供給される魔力量に比例するので、一人の人間が操れる魔法の規模はそれほど大きくできないというのが常識だ。


 私が危惧しているのは、他国(特に帝国)が火薬を発明することと、複数人で共同で発動する大規模魔法なんかを開発することだ。

 前者は可能だけど、後者はできるかどうかは分からないけどね。


 私自身、火薬や銃の知識は持っていないので、知識チートでブイブイ言わせたりはしないけど、もし知識があったとしても伝えないだろうな。

 ただし、戦略級魔法についてはすぐにどうこうできるものでもないけど、一応頭の片隅には入れておこう。

 できれば開発しないほうが良いものではあるけどね。考えるだけなら面白いテーマだよ。


 昔、物理学における4つの力について考察したな。この世界(OS)に用意されているAPIの中に4つの力に直接働きかけるものがあれば、恐ろしい威力の魔法が実現できる。

 電磁気力、強い力、弱い力、重力の4つの力だ。

 どれも危険すぎてお手軽に実験できないし、私以外の人が見つけることもないだろう。

 でも思うのだ。1万年前の古代文明はなぜ滅んだのか?地殻変動などの自然環境変化で滅んだのかもしれないけど、もしかしたら戦略級兵器の使用で滅んだのかもしれない。

 4つの力の実験において災害レベルの事故が発生したのかもしれない。

 天災なのか人災なのかも分かっていないけど、高度な文明が滅んでしまったのは事実なのだ。

 したがって戦略級魔法の存在を頭から否定することはできない。


 ではどうやって威力を増すか?

 詠唱魔法では自分自身の魔力のみで発動するので、体重100キログラムの人は100の規模の魔法が限界だ。体重と魔力量は比例するからね。

 魔法陣ではどうか?自分の魔力量は魔法陣の励起(れいき)に使うだけだが、発動を維持するためのバッファとしても使われる。なので、自分の魔力量の10数倍(20倍以上はさすがに安定しない)と考えると体重100キログラムで1800から1900くらいの規模になる。安定して発動できるというレベルなら1500くらいかな。

 これは詠唱魔法に比べるとかなりの威力になるけど、それでも戦略級とは言い難い。戦略級と言うくらいなら魔力量は10000以上か、4つの力への直接的なアクセスが必要になるだろうね。


 要するに魔力バッファリングの問題さえ解決できれば魔力量の上限は撤廃されるんだよ。

 そもそも自然界の魔力吸収を断続的でなく連続的シームレスにできれば魔法がフリーズすることはないし、そもそもバッファは必要ない。

 考えるべきは魔法陣の中にある魔力吸収モジュールの改良なのだろうか?


 でも待てよ。管理者は必ずバッファが必要だと言っていた気がする。さすがによく覚えてないけど…。

 であれば次に考えるのは、複数人の魔力バッファを一つにまとめて使うことができるか?ということになる。もし可能であれば、2人で3000、10人で15000という規模の魔法が実現できることになるよね(体重100キログラムの場合)。

 例えば、2人の人間が手をつないでその間を魔力が流れるようなら、それは2人分の魔力バッファとみなせるんじゃないか?


 ここまで考えた私は、はっと思いついて昔作った魔法陣をアイテムボックスから取り出した。

 マジックガードの実験で作って維持魔力量の大きさゆえに発動できなかったものだ。1メートル四方で厚さ20センチ、持続時間10秒で維持魔力量が2000だったもの。捨てずにアイテムボックスに入れていたのだ。

 魔法陣をあらためて記憶し、発動してみるも一瞬起動するけどすぐに霧散する。そりゃそうだ、そんなに体重は増えてないっての。


 急いでお兄様を呼びに行った。

「お兄様、お兄様、今よろしいですか?」

「どうしたんだい?あわてて。何か緊急事態かい?」

「いえ、ふと思いついたことがありまして、すみません。魔法陣の実験をしたいのですが、お手伝いいただけますか?」

「もちろん良いさ。今度はどうやって驚かされるのか楽しみだよ」

「あ、成功するかどうかは分からないというか、失敗する可能性が高いというか…」

 しどろもどろになってしまった。

 本当に単なる思い付きなんだよね。


「この魔法陣はマジックガードの実験で作ったもので必要な魔力量が2000であるため、私では発動できません。お兄様が発動できるかどうかを試していただけますか?」

 お兄様は魔法陣を受け取り30分くらいかけて記憶した。しかし、私と同じく一瞬起動するが発動には至らなかった。

「ごめん。僕には無理みたいだよ。発動できなければ実験は続けられないのかい?」

「いえ、発動できないからこそ実験できます。右手は前へ(かか)げるのはいつも通りで、左手を私の右手と(つな)いでください。これでもう一度起動してみてください」

 結論は無理。発動しなかったし、惜しいという感覚もなかったようだ。


「では今度はさきほどの体勢に加えて私の左手でお兄様の右手首をつかんでみましょう。すみませんがもう一度お願いします」

 ダンスのときの姿勢のようにお兄様と向かい合う形になったため、少し照れる。くそー、兄とはいえ、イケメンパワーがすごいな。


 お兄様が魔法を起動した瞬間、私の中を魔力が流れる感覚が走り、そしてなんとマジックガードが発動した。

 1メートル四方で20センチ厚という分厚い半透明の(かたまり)が10秒間確かに発現したのだ。

 お兄様と私は手をつないで向かい合った体勢のまま目を見合わせ、一拍後、喜びを爆発させた。

「すごい、すごい。すごいよ、マリア。必要な魔力量が2000の魔法陣が発動したよ。快挙だよ」

「ええ、お兄様。すごいです。感動しました。さすがは私のお兄様です」

 こんな簡単なことで大規模魔法の可能性が生まれるとは、なんてご都合主義。いえいえご都合主義バンザイです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ