081 強盗団を捕縛
翌朝1階の高級レストランで朝食をとった。
昨日とは違い、個室ではなく広々としたホールに多くのテーブルが並んでいる中の一つに4人で座っている。
少し遅めの時間帯なので客の姿もまばらだ。
「キャー」
突然女性の悲鳴が聞こえてきた。皆で顔を見合わせ、すぐに全員でレストランの出入口である宿屋のエントランスとの境目に走った。
こっそりエントランスホールをのぞくと、ブレンダの母ちゃんが大柄で剣を持った男に拘束されている。
左腕を首に回され、右手に持つ剣で脅しているようだ。強盗か?
さらに剣で武装した仲間が数人いるようだ。
「おとなしく有り金を出せ。こんな宿屋ならたんまり金を貯めこんでるだろ?」
ここって用心棒的な人は雇ってないのかな?もしくは警備員とか。
あと、ブレンダの父ちゃんの姿が見えないが、おそらくお金を取りに行ったのかな。
ルーシーちゃんがこっそりと聞いてきた。
「どういたしますか?」
「ブレンダのお母様が人質になっていること。強盗団が総勢何人いるのかが分からないこと。そしてその所在も不明。これらの要因で今は動けないわ」
私が答える。まさか魔法使いはいないだろうから遠隔攻撃についてはあまり考慮しなくて大丈夫かな?弓を持っているやつがいるかもしれないけど。
金を奪ってこの建物から出るときは強盗団全員が揃って行動するだろう。そのときに一網打尽にしたほうが良い。
人質だけが懸念事項だな。
「うう、お母さん」
ブレンダが涙ぐんでいる。大丈夫、絶対に助けるよ。
「剣さえあれば僕が突っ込むんだけどな」
いや、ペリーヌ、それは無謀だよ。あ、でもペリーヌはお兄様やアレンに次いでタイムストップが得意だから、人質奪還の際は頼りになるな。
受付の奥から強盗団の仲間らしき男に剣を突き付けられたブレンダの父ちゃんが現れた。
手にはかなり大きな手提げ金庫を抱えている。
それを開けるように指示された父ちゃんは金庫のダイヤルを回し、鍵を挿して解錠し、ふたを開けた。
強盗団の男たちから歓声が上がった。
「よし。それじゃ金庫ごといただいていくかな。あとこの姉ちゃんも王都を脱出するまでの人質として連れていく。全員でたっぷり可愛がってやるから安心しろ」
ブレンダの母ちゃんを拘束していた強盗団の頭目らしき男の言葉にブレンダの父ちゃんが悲壮な声で言った。
「そんな。お金は全て差し上げますから、その女性は解放してくださいませんか」
強盗団の連中はニヤニヤしていて、見ていると不快になる。お前ら、殲滅してやる。
宿の従業員たちに剣を突き付けていた男たちも出入口付近に集合し、逃げ出す準備をしている。どうやら全員で6名のようだ。
私は小声で指示を出した。
「みんな魔法陣の準備。ルーシーちゃんとブレンダはストーンライフルで強盗団の両端を撃つ。ルーシーちゃんは左側、ブレンダは右側。私は人質を拘束している男を狙う。私たちが一発目のストーンライフルを撃ったあと、ペリーヌは敵へ向かってダッシュ。タイムストップを適宜使って敵の剣を奪う。次弾はペリーヌに当てないように注意しつつ、残った敵を臨機応変に殲滅。良いかな?」
「了解しましたわ」
「うん、分かった。お母さんを助けるよ」
「頑張るけど、僕に魔法を当てないでね」
みんな落ち着いてるな。大丈夫だ。
「最後に大事な点を一つ。敵の無力化において命を奪うことを躊躇しないように。生かして捕らえるのがベストだけど、別に殺しても構わないくらいの気持ちで臨んでね。では状況開始」
私とルーシーちゃん、ブレンダは脳内に魔法陣を展開し、魔力を供給、伸ばした右手からストーンライフルを発動する。
この魔法の良いところは音が極めて小さいことだな。銃声のように大きな音はなく、空気を切り裂く音くらいしかしない。
「ぐっ」
「あがっ」
強盗団の左側にいた男が右腕を押さえてうずくまり、右側にいた男が腹を押さえてへたり込んだ。
私の放った石の弾丸は人質を拘束している男の剣を持つ右腕を吹き飛ばし、ちぎれとんだ剣付きの右腕が血を撒き散らしながらくるくる空中を舞っている。
その瞬間、ペリーヌが走り出し、残った強盗団と対峙する。そして多分タイムストップを発動したのだろうか、一人の男の腹にペリーヌの拳がめり込んだ。倒れ伏す男の剣を奪い、さらにもう一人の右腕を斬り飛ばした。これもタイムストップ発動か?
私は次弾を人質を未だに拘束している男の左肩に打ち込み、その左腕が肩の付け根からちぎれたのを見てペリーヌに指示を出す。
「ペリーヌ。人質の確保!」
剣を持ったペリーヌがブレンダの母ちゃんを抱きかかえ保護する。よし!
残り一人となった強盗は剣を投げ捨て両手を上げた。降参したようだ。
状況終了。ミッションコンプリートだね。




