080 お泊り会
ここは最上階にあるスイートルーム。
どうでも良いけど『スイート』は甘いって意味じゃないよ。続き部屋ありの部屋って意味だからね。
ワープロソフトや表計算ソフトがセットになってるやつをオフィススイートとか言うよね。って前世の話だけど。
20畳くらいあるリビングに、でっかいベッドが2台入っている寝室がセットになっている。
寝るときは誰かと一緒に一つのベッドに入るんだけど、なんとなくブレンダと一緒が良いな。あくまでも何となくだけど…。
あとは浴室とトイレも完備されていて、部屋の外に出る必要がない。さらに、この部屋も防音設備が整っているらしい。いったい宿泊代はいくらかかるんだろう?
浴室はさすがに全員一緒に入れるほどの大きさはなかったので、一人ずつ交代で入った。
風呂上がりの火照った身体をリビングのソファに座って休める優雅な一時。貴族っぽい。いや貴族だったな、つい忘れそうになるけど。
ワイングラスとか持って『ルネッサーンス』とか言ったりして。あ、お酒はまだ飲めないよ。この国ではお酒は20歳からなのだ。
「さあ、それでは尋問タイムですわ。まずはペリーヌさん、シュミット様とはどこまで進んでいますの?」
ルーシーちゃんがノリノリだよ。
「いや、進むも何もシュミット様とは別に…」
嘘だ!!!ひぐらしのレナさんばりに心の中で叫んじゃったよ。
「嘘ですわね。正直におっしゃってくださらないかしら。でないとシュミット様にあることないことしゃべりますわよ」
「そ、それは…。はい、こ、婚約を申し込まれました」
な、なんだってー。MMRのキバヤシさんばりに心の中で叫ぶ私。
「ねえねえ、返事したの?どうなったの?」
ブレンダが目を輝かせて話に割り込んでくる。
「お返事はまだよ。少し考えさせてくださいと申し上げたの」
「ええ?なんで?すぐにOKしちゃえば良いじゃん。好きなんでしょ?」
「ブレンダ、落ち着いて。貴族は色々と面倒なのよ」
やっと話に加わることができた私だった。まぁ、最終的には承諾するだろうな。もうお義姉さまと呼んだほうが良いかな?
「シュミット様はシュトレーゼンの跡継ぎであるばかりか、マリアちゃんを妹に持つという超おすすめの殿方ですわ。ペリーヌ、決して逃がしてはダメよ」
いや私が妹なのはあまり関係ないと思うよ、ルーシーちゃん。
「では次の標的はブレンダですわ。あなた3つ年上の見習い料理人と良い仲らしいですわね」
「な、な、なんでそれを?うちの両親ならともかく、ルーシーが知ってるっておかしくない?」
「ふふふ、シャミュア家の情報網を甘く見てはいけませんわ」
怖っ、ルーシーちゃんいやシャミュア家って怖いよ。なんなの?秘密情報部なの?
「お兄ちゃんは幼馴染で、私がまだ小さい時から遊んでくれてた兄みたいな人だよ。そんな良い仲とかじゃなくて…」
「ブレンダはこの高級宿屋の跡取り娘なんですから、これから財産狙いの有象無象が寄ってくるわよ。気を付けなさいな」
「うう、ありがとう、ルーシー」
そうだよな。めちゃ金持ちになったとたんに、顔も見たことない親戚とか増殖しそうだもんね。
「ルーシー、あなた自身はどうなの?好きな人とかいないの?アレンとか良いんじゃない?」
ブレンダの反撃だ。アレンとルーシーちゃんならお似合いだと私も思うよ。
「私がお慕いしているのはマリアちゃんだけですわ。というか、アレン様がお好きなのはマリアちゃんですよ」
えええ?なんか情報量が多くて消化しきれないよ。
まず、私を慕ってる?それは嬉しいけど、あくまでも友愛的なものだよね。そうだよね?百合じゃないよね?
それにアレンが私を好き?鈍感じゃないつもりなのでアレンの私への好意は感じているけど、なにしろ家格が違い過ぎて婚姻は難しいよ。子爵家のルーシーちゃんならギリでいけるかもしれないけど、侯爵家のアレンと男爵家の私では絶対あり得ないんだよね。
「私のことはどうでも良いんですの。それよりも最後はマリアちゃんですわ。さぁ白状してくださいまし。好きな殿方は?」
いや、特にいないよ。アレンのことは親友として大好きだけど、婚約や婚姻までは考えられないからね。
こうして夜遅くまで恋バナに興じた私たち(主にルーシーちゃん)は翌日すっかり寝坊したのだった。




