075 マジックガード【基礎実験②】
「お兄様、ちょっとよろしいかしら」
「なんだい、マリア」
防御結界魔法陣の基礎実験最後のワンピース、必要な厚さの計測だ。
私一人ではできないので、お兄様に協力を仰ごう。
「魔法の防御結界装置がありますよね。あれを魔道具ではなく、個人が魔法陣で展開できるようにしたいのです。それで、実験を手伝っていただきたいのですが」
「また、すごいものを作り出そうとしているね。さすがはマリアだ。何でも手伝うから遠慮なく命令して」
いや『命令』なんてしませんよ。するのは『お願い』です。
私は現状で判明している特徴や使用魔力量などの実験結果を全てお兄様へ伝えた。情報の共有、これ大事。
「魔法練習場で私が的の横に立って、的の前に防御結界を展開します。お兄様は的に向かって攻撃魔法を撃っていただけますか?」
「マリアに危険は無いのかい?その役目は僕のほうが良いんじゃないかな。いや、僕が防御結界を展開するよ。これは譲れない」
私の身を案じて下さるお兄様。容姿だけでなく性格すらもイケメンですね。
「うーん、魔法陣を記憶するのが大変だし、実験用の魔法陣なので起動後のパラメータ設定がたくさんあって面倒ですよ」
「いや、それくらい何とかしてみせるよ。大丈夫」
まぁお兄様は天才だからね。何とかしてしまう気はするな。
結局、お兄様が譲らないので、仕方なく攻撃役を私がすることになった。
「横方向の長さは50センチで縦方向を2メートル、持続時間は5秒にしましょう。そのパラメータを固定した状態で、厚さだけ変えていって実験します」
「うん、分かった。じゃあまずは厚さ1センチから試そう。次からは5センチ、10センチ、15センチと増やしていこうか」
つまり、魔力量は順番に50、250、500、750になるね。発動には問題なさそうだ。
お兄様が魔法陣を記憶するのに30分はかかったけど、これはかなりの早さですよ。さすがお兄様。
20メートル先の的の前に1センチ厚の防御結界がうっすらと現れた。
私はストーンライフルを発動して的に向かって撃ち出した。半透明の結界が壊れ、的のほうも貫通した。まぁ、1センチ程度では防げないよな。
「すみません、お兄様。もう一度1センチ厚で試してみたいのですが」
「ああ、分かったよ。さっきと全く同じものを起動するね」
今度は詠唱魔法でファイアアローを撃ってみた。え?防がれた?たった1センチ厚で?
「マリア、今度は完全に防いだよ」
すごいな。詠唱魔法は体内魔力をめちゃ消費するからあまり実験できないけど、もしかしたらほとんどの詠唱魔法は防げるかもしれない。
「お兄様、次は5センチ厚でお願いします。ストーンライフルを撃ちますので」
20メートル離れていると厚みの違いは分からないけど、また的の前に半透明の結界が出現した。
即座にストーンライフルを撃ったけど、今度は防がれた。
「もう一度5センチ厚でお願いします。今度はファイアボールを撃ちますので、できるだけ離れてくださいますか」
次はファイアボールを防げるかだな。多分抜けると思うけど。
お兄様は的から限界まで離れているけど、私のほうが怖いよ。誤爆したらどうしよう。
直径1メートルの火球が防御結界に向かっていき、予想通り結界を破壊し、的も燃やした。やはり5センチ厚じゃ無理か。
「お兄様、大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ、マリア。少し熱かったけどね」
苦笑しながら言うお兄様、火傷してないだろうな。
「では次は10センチ厚でお願いします」
結論を言うと、ストーンライフルは当然のことながら、ファイアボールやウォーターボールもこの防御結界を抜けなかった。
どうやら10センチの厚みがあれば魔法陣を使った攻撃魔法のほとんどは防げそうだ。全ての魔法陣を知っているわけじゃないので推測にすぎないけどね。
15センチ厚は試さずに終わったけど、別に問題ないだろう。




