071 アレン・フォン・リヴァストの回想⑤
高等学院に入学した。
マリアやルーシーのほかにブレンダやペリーヌという新たな友人もできた。女子ばかりなのは少し困るが。
侯爵家という家格の問題なのか、男子の友人ができにくい。というより、正直に言うと男子の友人はいない。おべっかを言ってすり寄ってくる者は多いけど。
入学式の日、オリエンテーションを行う教室内で伯爵家の者にからまれていた友人たちを助けたり、ブレンダの複写発動技術に驚いたりと様々な出来事があった。
なによりも驚いたのはマリアの開発した新たな魔法陣、タイムストップという魔法だ。
「今日は重要な話をします。これは王宮にも伝えていない秘匿技術だと思ってください」
マリアのこの言葉で魔法陣技術を開示するつもりだなとピンときた。
集まった友人たちはマリアの行う魔法陣の説明に驚いていたが、なによりルーシーの感動がすごかった。
「魔法陣、素晴らしい技術ですわ。私、感動しました。やはりマリアちゃんは天才だったんですね?いえ、もはや天使と言っても過言ではないかと」
うん、実は僕も少し感じている。天使というか妖精というか、常人とは異なる雰囲気があるよね。もちろん良い意味で。
魔法練習場で魔法陣のストーンライフルを撃った僕はルーシーに詰め寄られ、それをマリアがなだめたりと大変だったな。
その日のうちにペリーヌを除く全員が魔法陣による魔法発動に成功したけど、シュトレーゼン家の兄妹と僕だけの秘密だったのになぁと少し寂しく思ったのはマリアには内緒だ。
そしていよいよタイムストップの魔法陣だ。
「この魔法陣は武術における切り札となる魔法を発動できます。皆さんにはぜひ習得していただきたいと思っています」
武術における切り札?そもそも接近戦を戦っているときに魔法は発動できないよ。しかも今まで覚えてきた魔法陣と比べるとかなり簡潔な模様だ。
「マリアさん、これって今までの魔法陣に比べるとすごく模様が簡単で覚えやすそうなんだけど、そんなすごい効果があるの?」
「はい、アレン様。それに皆さん。この魔法は自分を中心とした半径1メートルの円の中の時間を1秒間だけ止めます。もちろん自分自身には影響ありませんので、1秒間はやりたい放題ってことですね。魔法名はタイムストップです」
なんだって?時間を止める?本当にそんなことができるのだろうか?信じられない。
ただし、シュミット様のタイムストップは僕に渡されたものとは違うらしい。
「ちなみに、お兄様にはこれとは別の魔法陣を渡していて、すでに習得していて使いこなしていますね」
「うん、僕のは半径2メートル、停止時間0.5秒の魔法陣にしてもらったんだ。剣を使うし、試合を見ている周りの人にばれないようにね」
なるほど。確かに1秒間は長すぎるかもしれないな。0.5秒の時間停止で十分だと僕も思う。
マリアにお願いして僕のタイムストップもシュミット様のものと同じにしてもらった。ペリーヌも同じように変更してもらったようだが、こちらは理由が異なるかもしれない。愛だな。
僕は小さいころから魔法以外にも剣をずっと練習している。剣術においてこの魔法はまさに切り札と言えるだろう。
寝る間を惜しむように常に発動練習を行い、息をするようにとっさの発動ができるよう反復練習している。今までになく入れ込んでるな。
夏休みに入ってからも練習を繰り返し、ある日シュミット様に挑んでみたものの惜しくも負けた。うん、あれは惜しかったと自分でも思う。
「アレン様、惜しかったですね。あと少しでした」
マリアの言葉が励みになる。きっと君を守れるような男になるからね。
ちなみに、マリアにはまだ婚約者がいない。恐れられているシュトレーゼン家というのもあるかもしれないが、本来なら婚約者がいてもおかしくはない。
僕にも婚約者はいないのだが、実はリヴァスト家の裏工作でそうなっている。というか、僕が父上にお願いした。
僕とマリアでは家格が違い過ぎて、正室として迎え入れることが難しいのだ。でも僕は将来はマリアとともに歩むことを決めているし、それは父上にも伝えている。
なのでマリアに婚約を申し込もうとする動きがあればことごとくつぶしているし、僕への婚約申し込みも断っている。
マリアは大人になれば自身の力で伯爵くらいにはなれるはずだからね。並外れた知識と実力をもってこの国への貢献を行えばきっとね。そのとき僕は婚約いや結婚を申し込むつもりだ。
夏休みも終わり新学期が始まったが、鍛錬していたタイムストップの練度はやはりシュミット様には及ばなかった。
面白かったのは、マリアが一番タイムストップを苦手としていたことかな。開発者なのにね。
そして武術大会の日となった。
観戦するだけでも面白い。シュミット様とペリーヌは別行動でデートだそうだ。くっ羨ましい。
優勝した先輩はさすがだった。僕もタイムストップ無しで勝てるとは思えない。
ところが、表彰式前のエキシビションで大事件が発生した。
帝国の剣士の乱入だ。優勝者の先輩に続いてダニエル先生すら倒されてしまった。
しかも試合場から学生へプレッシャーをかけてくる。
「おい、そこの顔の良い兄ちゃん、美人をはべらせてるが一人くらい吾輩に貸してくれや。まぁ返さないけどな」
正直むかついた。僕は1年生でしかも魔法組だ。本来なら目立つべきではないと理性がささやいているが、我慢できない。
「マリアさん、あれを使うけど良いかな?」
「ええ、アレン様。やっつけちゃってください」
マリアにタイムストップの使用許可を得た。一応、秘匿技術だからこんな衆人環視の下で使うのはあまりよくないが、マリアもむかついているのかもしれないな。
僕としてもマリアの応援は心強い。
試合開始の合図とともに間合いを一瞬で詰めてくることは予想できたので、相手が動き出した瞬間にタイムストップを発動させた。
それでも相手の剣が僕の右手首の直前まで迫っていたのには冷や汗が流れた。一瞬でも魔法の発動が遅れていたらやられていたのは僕だ。
なんとか相手の手首を剣で叩くことには成功したが少し浅かったようだ。やはり精進が足らない。シュミット様ならこの一撃で終わっていただろうに。
「お前には吾輩の奥義を見せてやろう」
ダニエル先生を倒した技だ。顔の横で地面と水平に構えた剣が恐ろしい速度で伸びてくる。ダニエル先生のときは、突きで殺さないように伸ばした剣先を薙ぎ払うことで側頭部へ一撃を入れて倒していたけど、恐ろしい膂力と手首の力だ。正直言って怖い。
しかし、動きだしのタイミングは測れている。初見では対処できなかったかもしれないが、一度同じ技を見ているのであとはタイムストップの発動タイミングだけだ。
0.5秒間の硬直は接近戦においては致命的と言える。
伸びてきた剣をかいくぐり、相手の胴を薙ぎ払った。
「う、動きが見えなかった。その速さ、人間か?」
うん、分かる。気付かないうちにやられていたという感想を抱くだろうな。
でも魔法を使うことについては試合前に了承してもらっている。別に卑怯ではない。
試合後、ヨシテルと名乗った帝国人は僕に対して敬意をもって話しかけてきた。
第一印象と大きく異なり、本質的には良い人なんじゃないかと思われる。手首をやられた先輩の骨も折れていなかったし、ダニエル先生は軽い脳震盪を起こしたくらいだったようだ。
手加減してくれたらしい。
僕のときも本気ではなかったのかもしれないな。
僕の使った剣技について聞かれたので『門外不出、一子相伝』などとごまかしたが、そのときのマリアの顔が面白そうにニヤニヤしていたのが印象的だった。
ヨシテル氏が去ったあとも学院長やダニエル先生に囲まれて大変だったけど、マリアに褒められたのが何よりも嬉しかったよ。




