069 武術大会②
帝国野郎(名前は知らん)は剣を肩に担いだ状態で、あたりを見回しガンをつけている。
「お前らの中に吾輩に挑む勇者はおらんのか?おい、そこのお前、どうだ?」
学院生の制服を着ている男子生徒の数人に声をかけるが、声をかけられたほうはそっと目をそらすばかり。そりゃそうだ。ダニエル先生が負ける相手だよ。
「王国の学生は軟弱者ばかりのようだな。教師のかたきを討とうとする者が一人もおらぬとは」
言いたい放題だよ。くそー。
「おい、そこの顔の良い兄ちゃん、美人をはべらせてるが一人くらい吾輩に貸してくれや。まぁ返さないけどな」
こう言われたのはアレンだった。美人って私のこと?おっさん、見る目あるじゃん。
「マリアさん、あれを使うけど良いかな?」
「ええ、アレン様。やっつけちゃってください」
タイムストップを使うつもりだね。使って勝てる相手かどうかは私には判断できないけど、アレンには勝算があるんだろう。
前へ進み出たアレンは帝国野郎に確認した。
「僕が相手になってやっても構いません。ただし、僕は魔法使い、帝国風に言うと魔導師です。当然魔法を使いますがよろしいですか?」
「ああん?剣の間合いで魔法をちんたら詠唱する時間があると思ってんのか?おめでたい野郎だな」
普通の詠唱魔法は遠距離攻撃用だ。こういう近接戦では詠唱中に剣で斬られて負けるよね。
「良いのですか?と聞いています。それとも負けを認めますか?」
「馬鹿かお前は。勝てるとでも思ってるのか?まぁ良い。魔法でもなんでも勝手に使えや」
乗ってきた。これでアレンの勝ちだ。
1年生の魔法組の学生がダニエル先生ですらかなわなかった相手に挑む。みんな不安げにザワザワしているけど、大丈夫だよ。
審判が試合開始の合図をした瞬間、帝国野郎のおっさんは一気に間合いをつめてきた。
剣がアレンの手首に振り下ろされる直前で一瞬固まったように見えたが、次の瞬間おっさんの手首をアレンの剣が叩いていた。刃をつぶしていなければ切り落とされてたな。
痛みで眉をしかめているものの剣を手から離さなかったのは見事だ。
審判が一本を宣告しようとしたが、おっさんはそれを押しとどめた。
「まだやれる。続けるぞ」
「僕も構いません」
「それにしてもどこが魔導師だよ。すっかり騙されたぜ。見事な剣技だ」
「ありがとうございます。ですが本職が魔法使いなのは本当です」
魔法使いとしてタイムストップの魔法を使ってるんだから、魔法使いらしい戦いと言えるよね。秘密だけど。
「お前には吾輩の奥義を見せてやろう」
そう言って、ダニエル先生を倒したときの変な構えをしてから呼吸を整えている。必殺技か。
おっさんが動いた瞬間、アレンの剣がおっさんの胴を薙いでいた。
いくら刃をつぶしているとはいえ重い鉄の塊で腹を叩かれたわけで、さすがのおっさんも膝をついた。
「う、動きが見えなかった。その速さ、人間か?」
タイムストップをかけられているほうは時間停止状態なので、相手が瞬間移動したように感じるだろうね。
とにかく、王国の威信は守られたよ。
一拍置いて大歓声が巻き起こった。
帝国の剣豪っぽいやつを学生が倒したんだもの。快挙だよ、まじで。




