068 武術大会①
あっという間に武術大会の日になった。
剣術部門と槍術部門があって、別会場で開催されている。
私たち仲良し4人組は剣術部門を見に来ている。ちなみに、お兄様とペリーヌは槍術部門へ行ったようだ。デートだな。
試合はトーナメント形式で事前の予選を勝ち抜いた32名が戦う。
5回連続で勝利すれば優勝だ。
出場しているのは5年生と4年生の上位クラスに所属する武術組で、魔法組の人はいなかった。
予選で落ちたのか、そもそも申し込まなかったのかは分からないけど。ちなみにお兄様は後者だ。
結局、優勝したのは最上級生である5年生のAクラスに所属する人だった。
さすがに体格がすごい。ボディビルダーみたいに筋肉ムキムキですよ。服着てたけど。
刃をつぶした普通の長剣が短剣に見えるよ。
ここで終われば平穏無事だったんだけど、観客へのサービスが事件を発生させた。
試合の実況をしていた司会者がこう言った。
「ご覧になっている紳士淑女の皆様、ここにいる優勝者に挑戦してみる方はいらっしゃいませんか?ハンデとして優勝者は一歩もその場を動かず、動いてしまった時点で挑戦者の勝ちとします。勝った方には金一封をさしあげます」
毎年これをやるんだけど、必ず2、3人は挑戦者がいるらしい。…ってお兄様が言っていた。
この大会は学院生だけでなく外部の一般人も見に来ているので、挑戦するのはほとんどが外部の人らしい。まぁそりゃそうだ。
観客の中から数人が手を挙げた。若者からおじさんまで様々だ。
防具を付けてから順番に挑んでいくが、まぁ大人と子供の戦いだね。全く歯が立たない。でも皆さん負けても楽しそうだ。
ところが最後の挑戦者の順番になって事件が起こった。
剣を構えて対峙する。
開始の合図とともに挑戦者が即座に間合いをつめると、優勝者がうめき声をあげて膝をついた。剣も手を離れて地面に落ちている。
よく見えなかったけど優勝者の剣を持つほうの手首をぶっ叩いたみたい。あれ骨が折れてないか?
「勝者、挑戦者。お見事です。いやそれより医者を早く」
司会者もあわてている。
この学院の剣術ナンバーワンを倒した挑戦者は、剣を高く上げて大声でこう言った。
「この国の剣の技量も大したことはないな。やはり我が帝国の相手にはならないようだ」
帝国の人らしい。ガルム語ではなくわざわざグレンテイン語でしゃべっているのは、私たちに聞かせたいのだろう。
って、また帝国かよ。
いや、国交断絶してるわけじゃないから観光客として我が国に来ていても別に良いんだけど、ハンデ戦でそんなに勝ち誇られてもなぁ。お前、少し恥ずかしいぞ。
「やつの技量はあの先輩が油断していなくても太刀打ちできたかどうか微妙かもしれない」
アレンがぼそっとこぼした。
え?そんなすごい剣士?…って、そんなやつが何をしにこの国に来たんだよ。
「おいおい。学生を倒したくらいでこの国の技量を測られても困るぜ。なんだったら俺が相手してやろうか?帝国野郎」
武術担当講師のダニエル先生だ。先生だったら帝国野郎をぶっ飛ばしてくれるはず。
エキシビションマッチのさらなる追加試合としてダニエル先生と帝国野郎の試合が決まった。
「吾輩は帝国の威信を背負っているからな。誰が相手でも負けるわけにはいかぬのだよ」
お前は猫か?吾輩っていう人を今世で初めて見た。
試合開始の合図とともに両者の目まぐるしい攻防が始まった。私の動体視力ではあまり目で追えていないのでよく分からん。
アレンは見えているようで、私たちに解説してくれる。
息を整えるためなのか両者が離れた。帝国野郎は変な構えをしていて、必殺技でも出しそうな雰囲気だ。
瞬間、両者の立ち位置が入れ替わり、ダニエル先生がゆっくりと倒れていった。まじか。帝国野郎は平然と立っている。
「この国の教師の技量すら大したことがないということがよく分かった。皇帝陛下に良い報告ができそうだわい」
てか、さっきからグレンテイン語でしゃべってるけど、お前グレンテイン語ペラペラだな。バイリンガルかよ。
しかし、むかつくな。別にこの国の騎士団のトップが負けたわけじゃないけど、くやしいな。
まさか帝国にはこれほどのやつがゴロゴロいたりするんじゃないだろうな?この結果は帝国皇帝の我が国への侵攻欲を刺激しそうで怖いな。




