006 魔法陣①
初めての魔法にうかれていた私だが、どうにも管理者の説明との食い違いが気になって仕方ない。。
管理者が私に嘘をつく必然性は無いし、おそらくそちらが真理なんだろう。
でも、詠唱によって魔法は発動した。どうなってんだ?
とにかく情報が足りない。少ない情報量では何も判断できない。
まず異なる点を整理しよう。
1.魔法陣を魔力で励起させるのではなく、詠唱により魔力を具現化している
2.自然界の魔力吸収ではなく、体内魔力を使っている(かどうかは、まだ判断できないが…)
ナタリア先生に確認すべき点は2つ。
1.魔法陣の存在
2.魔力切れ状態での魔法発動可否
「先生、魔法を使う方法って、これ以外には無いのですか?」
「はい、そうですね。今は滅んだ古代文明の時代、魔導書に書かれた魔法陣というものを使った魔法があったそうですが、現在その技術は失われています」
「その魔導書って残っていないのですか?」
「何冊か残っていますが、ほとんどは博物館に展示されていますね。なにしろ古代語で書かれているため、誰にも読めないのです」
ほほう。私の【全言語理解】なら読めるかな?
「人の持っている魔力って限界は無いのですか?」
「いえ、人それぞれ保有魔力の上限はありますよ。子供は少なく大人は多いというのが一般的な傾向ですね」
「太っている人の魔力が多いとかは?」
「特に聞いたことがありませんね。そもそも魔法を使える人が少ないためサンプルデータ自体が少ないのです」
「魔力量を計測することはできないのですか?」
「計測用の魔道具はありますが、色の違いで判別できるだけですね」
「魔力が残ってない状態で魔法は使えますか?」
「魔力を魔法に変換している以上、当然使えませんね。魔力は時間とともに自然回復するので、ゆっくり安静にして回復を待つ必要があります」
ふむ。ということは、自然界の魔力を強制的に吸収し、体内にバッファリングして使ってるわけじゃないんだな。
かなり分かってきたぞ。
ここからは私の推測、というか仮説だが。
この世界というOS(オペレーティングシステム)には魔法発動のためのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)が存在し、そのAPIをコール(スーパーバイザーコール)することで魔法が発動する。
APIをコールするには、自然言語(詠唱)による呼び出し(インタプリタ方式)と魔法陣(コンパイル後のロードモジュール)による実行(コンパイラ方式)がある。
詠唱方式の場合は発動に時間がかかるもののデバッグが容易で、かつ学びやすい。
それに対して、詠唱をコンパイルして事前に魔法陣を作っておく方式では、魔法発動を無詠唱で実行でき、高速化できる。
さらにその魔法陣の中に自然魔力吸収機構を別モジュールとして組み込んでおくことで、体内魔力オンリーという制約から解き放たれるわけだ。
「マリア様、大丈夫ですか?今日の授業はこれで終わりましょうね」
難しい顔をしてうんうんうなっている私を心配したのか、ナタリア先生から声がかかった。
「はい、大丈夫です。とてもとても参考になりました。一度魔法陣というものを見てみたいのですが、一般人でも見れるものなんでしょうか?」
「マリア様は一般人ではありませんよ。まぁ、マリア様のような貴族令嬢でも私のような平民でも魔法陣を見ることはできますので、近いうちに手に入れて持ってきましょう」
「わぁ、ありがとうございます。ぜひお願いします」
魔法陣の現物を見れば、仮説を検証することもできるはずだ。楽しみだ。