059 武術の授業
高等学院の授業はなかなか高度なものだった。予想よりもずっとね。
国語・数学・理科・社会の必須4教科に加えて、魔法と武術の選択授業がある。
私たち仲良し4人組の選択授業は全員『魔法』になるはずだった。入試を『魔法』で受験したんだから、選択授業も『魔法』を選ぶのが当然だな。
ところがここで予想外の状況になってしまった。
結論から言うと、私たち全員『武術』の授業を受けることになったのだ。どうやら『魔法』を担当する先生から泣きが入ったらしい。教えることはなにもない。逆に私が教わりたい…と。
実はお兄様もそうだったので、もしかしたらとは思っていたけどね。お兄様も『魔法』で受験したのに『武術』の選択授業を受けているんだよね。
ブレンダについては『魔法』の授業を受けて正統派の詠唱技術を習得するのも重要かな?と思うんだけど、ブレンダだけ『魔法』で私たち3人が『武術』だとブレンダを守れないだろうというアネット先生の判断で全員が『武術』になったのだ。
ブレンダには私たちで詠唱魔法を教えれば良いしね。
私は『武術』でも落胆することはなかった。前世では本を見ながら八極拳を独学してたしね。気功術に興味を持ったのもその関係なのだ。
お淑やかなルーシーちゃんだけは不安そうだったけど、アレンやブレンダは楽しそうにしている。
魔法使いにも武術は必要だと思うよ。
「よし、揃ったな。今日からこのクラスの武術を担当するダニエルだ。ビシバシ鍛えるのでよろしくな」
いかにも脳筋って感じの体格の良い先生だ。前世の体育教師を思い出す。
授業を受けるのはAクラスの中の10人。本当は6人だったんだけど私たち4人が入ったからね。『武術』で受験して合格したのは、Aクラスでは6人だけだったとは少ないな。
「今回魔法組から武術に転向したものもいるとのことなので、最初は基礎的な内容から入っていこうと思う。まずは軽くグラウンド10周だな」
グラウンド1周はおよそ400メートルなので、いきなり4キロメートル走ってことか。いや、軽くないって。
ひいひい言いながら何とか走り切った私たち。いや、8人は軽く終わらせたみたいだけど、私とルーシーちゃんだけが遅れに遅れて皆を待たせちゃったんだよね、ごめんよ。
予想外だったのがアレンとブレンダで、本来の武術組についていっていた。お兄様もそうなんだけど、アレンも剣術とかやってそうだな。ブレンダは宿屋の手伝いで体力があるのかもしれない。
いきなり武器をもって振り回すと危険なので、1年生の間は体術だけだそうだ。2年生以降は剣や槍など自分の好きな武器のコースに分かれるらしい。
この世界の体術、つまり格闘術は打つ・投げる・極めるの三要素を持つ前世の総合格闘技みたいなやつだった。女の子にはハードじゃね?
しかも、上半身には防具を付けるけど、頭部や顔面を守る防具は無いのだ。これ絶対やばいって。
10人中、女子は4人なので基本的には女子同士で訓練することになるけど、顔面パンチなんかくらいたくないよ。
ブレンダとルーシーちゃんはまだしも、一人は確実に『武術』で合格してAクラスにいるガチな人じゃん。
なんか魔法か魔道具で対策を考えるしかないな。ケガしたくないし。
でも良かった点もある。
武術組って気の良い人が多いみたい。初日に絡んできたジョナサン君のような鼻持ちならない貴族はいなかった。
健全な精神は健全な肉体に宿るんだな、きっと。
たった一人の平民のブレンダにも私たちと同じように気軽に声をかけてくれてるし、平民に偏見を持つ権威主義的な貴族などではないようで一安心だな。
私、というかシュトレーゼン家に対する恐れはあるようで、それだけは困ったものです。怖くないよ。




