058 1年生Aクラス
各クラスの人数は30人で、Aクラスの男女比はだいたい半々だ(ほかのクラスは知らない)。
担任の先生が来たので、ようやくオリエンテーションが始まった。
なお、席順は決まってなくて自由らしい。毎日自分の好きな席に座って良いとのことだった。
「担任のアネットだ。お前たち全員、これから1年間、このクラスで一緒に学んでいく仲間になる。貴族も平民も身分に関係なく仲良くするようにな。高位貴族が低位貴族や平民に無理難題を吹っ掛けたりした場合、ペナルティを課すから気をつけろよ」
口調は男の人っぽいけど、担任の先生は女性だった。しかも、美人だ。アラサーくらいかな?クールビューティー。
最も優秀なAクラスを担当するんだから、きっとこの先生も優秀なんだろう。少しきつそうな性格にも思えるけど、私は好きだな。
その後、お決まりの自己紹介を一人ずつ行う。私がシュトレーゼンの家名を出した瞬間、教室内の空気が変わったようにも感じたけど気にするまい。
「ふむ、お前が噂のマリア・フォン・シュトレーゼンか。ナタリアからよく聞いてるぞ」
えっ?もしかしてナタリア先生のお知り合いの方ですか?
確かに年齢的には同学年くらいに見えるけど。
「ナタリア・フォン・ノイマンとは高等学院時代からの親友だ。彼女は学院時代は平民だったから、私がよく助けてやったものさ」
アネット先生は貴族なのかな?家名を言わなかったので分からんけど。
それはともかく、世間って案外狭いものだよね。
諸々の注意事項を説明したあと、アネット先生は最後にこう締めくくった。
「このクラスは新入生120名のうち、入試順位のトップ30が集まっている。しかし、2年生に進級したあとAクラスを維持できるかは今後のお前たちの頑張り次第だ。気を引き締めて勉学に取り組むようにな」
私たち仲良しグループの4人全員が来年以降もずっとAクラスだったら良いな。
「ブレンダ、マリア、アレン、ルーシーメイの4名はこのあと少し用がある。教室に残っていてくれ」
まさにその仲良しグループ全員に居残りが命じられた。なんだろう?まだ何も問題は起こしていないと思うけど。
ほかのクラスメイトたちが退室して、アネット先生と私たちだけになった。
「残ってもらって悪いな。お前たちには例の件で一応念押ししておこうと思ってな」
「例の件と言うと、ブレンダの魔法の話ですか?」
アレンが私たちを代表して聞くと、アネット先生は頷いた。
「そうだ。このクラスの中には入試を『武術』で受験したものもいるから全員があれを見たわけではないが、『魔法』で受験したものは全員あの会場にいた。明日以降何かを聞き出そうとする者が必ず出てくると思う。しかし、あれは国家機密指定になったからな。詳細については絶対に話さないようにしてくれ。頼んだぞ」
「分かりました。侯爵家の僕にうるさく聞いてくる者はいないでしょうけど、留意しておきます」
「私も何を聞かれても『何も知らない』をつらぬきますわ」
アレンとルーシーちゃんがすぐに答えた。
私も誓っておこう。
「私も…」
「いや、マリアさんに聞いてくる人はいないと思うから大丈夫だよ」
「そうですわ。そんな命知らずな方はいないでしょう」
私の発言にかぶせるようにアレンとルーシーちゃんが言ってきたけど、私ってどんだけ怖がられてるの?レディに対して失礼じゃない?
「それよりも一番の問題はブレンダですわ。このクラス唯一の平民だし、当事者なので絶対質問攻めにあいますわ」
「そうだね。できるだけ僕たち全員か、少なくとも一人以上はブレンダと一緒にいるようにしよう」
「私も賛成です。みんなで一緒に行動しましょう」
やっと私も発言できた。
「ありがとう、みんな。問題起こしてごめんなさい」
ブレンダも申し訳なさげだ。でも問題なんてとんでもない。ブレンダが発見したことは歴史的快挙なんだよ。
「それで頼むぞ。ブレンダを皆で守ってやってくれ。話は以上だ。帰っても良いぞ」
アネット先生の言葉で私たちは退室したんだけど、まだ正午前の時間。今日は入学式なので午前中だけで終わりなのだ。
4人でどこかに遊びに行くか、誰かの家に集まるか。みんなで話し合いながら校門を出る私たちだった。




