057 入学式
「グレンテイン王国王立高等学院入学式を開会する」
偉そうなおじさんが拡声の魔道具の前で宣言すると、広い講堂内に声が響き渡った。
いわゆるマイクとスピーカーだな。
学院長のお言葉、来賓の挨拶、生徒会長の挨拶、新入生総代のスピーチと式が進んでいく。
新入生総代は誰なのかと思っていたらアレンだった。
新1年生の中では侯爵家が最も高位だったのと、入試成績が3番だったかららしい。
後日アレンに教えてもらったのだが、入試1位はブレンダ、2位は私でルーシーちゃんは4位だったらしい。
ブレンダは文句なく無詠唱技術発見の功績で、ほかの3人は筆記試験の成績も圧倒的上位だったのに加えて、魔法の発動速度が異常に高速だったからとのこと。
でもまぁ、私にスピーチの依頼が来なくて良かったよ。苦手なんだよね、スピーチ。
初日はオリエンテーションがあるとのことで、ルーシーちゃんやブレンダと一緒に割り当てられたクラスの教室へ移動した。ちなみにアレンはちょうど別の男子生徒に話しかけられてたので、声をかけなかった。
教室の席が決まっているのか自由なのかが分からないので適当に3人で固まって座っていると、なんだかチャラそうな男子生徒が声をかけてきた。
「ねぇ君たちどこの家のご令嬢なの?王宮主催の舞踏会では見たことがないんだけど」
そんな舞踏会に出席したことはない。多分ルーシーちゃんもないと思うし、ブレンダは当然あるわけない。
てか、まずはお前が先に名乗れ。
「私はルーシーメイ・フォン・シャミュアと申します。ところであなた様のお名前は?」
ルーシーちゃんが3人を代表して対応してくれた。
「俺様はジョナサン・フォン・エイドルマン。エイドルマン伯爵家の三男だ。シャミュアというと子爵家か。うちより下だな」
まじか、自分のことを俺様っていう人を初めて見たよ。珍獣か?
それより『うちより下』って何だよ。確かに家格は下だけど、それを面と向かって言うやつもあまり見たことないぞ。
「ほかの2人は子爵よりさらに下ってことだろ?お前たち俺様には逆らうなよ。つぶすぞ」
いやいや三男で何をいきがってるんだ?お前にそんな力はないだろう?
ルーシーちゃんと私はこいつを呆れた目で見ながら何も言わず、ブレンダは初めて貴族らしい貴族に会ったので目が泳いでいる。
「だったら僕がきみのところをつぶすよ」
こいつの後ろから声をかけてきたのはアレンだ。
待ってました。ヒーロー登場。
「なんだと?…って新入生総代のアレン様ではないですか。さきほどのご挨拶はお見事でございました」
振り返ってアレンを見た瞬間、態度が切り替わった。侯爵家への追従が見てて不快だ。
「この3人は僕の大切な友人でね。もしもきみがこの3人に危害を加えたら、僕はためらいなくエイドルマン伯爵家をつぶすだろう。もっともこの娘はマリア・フォン・シュトレーゼン嬢なので、きみのほうが心配だけどね」
それを聞いたジョナサン君、顔が真っ青になって震え始めた。え?何、どういうこと?
「しゅ、シュトレーゼン?た、大変申し訳ありませんでした。ど、どうか穏便にお願い申し上げます」
ふむ、なんか嫌な展開になりそうな予感。うちの家名に何か?
この疑問にルーシーちゃんが答えてくれた。
「シュトレーゼンには手を出すな。ここ数年で貴族の間に広まった教訓ですよ。いや、もはや格言の域に達しているかもしれません」
「はぁ?うちの家に手を出すなって、なんでそういうことを言われるようになったの?」
「ガルム帝国の特務小隊殲滅事件が貴族の間に広まって、さらに噂に尾ひれが付いてしまい、マリアちゃんの家がすごく恐れられるようになってしまったんですの」
「その格言は僕も知ってるよ。なぜマリアさんが知らないのかが分からないくらい有名なんだけど」
まじか。あの事件の余波がこんな形で残っているとは…。許すまじ、帝国。
私も一応挨拶したほうが良いのかな?と思っていたら、ジョナサン君、そそくさと離れていってしまった。そんなに怖いのかよ。失礼だな、全く。
このクラスで私が自己紹介したときのみんなの反応が怖いな。




