050 高等学院入学試験②
「魔法の実技試験では自分の得意とする魔法を使って向こうにある的を攻撃してもらいます。評価ポイントは準備をしてから魔法を発動するまでの時間、攻撃の威力、詠唱文の美しさなどです」
はぁ?詠唱文の美しさぁ?なんなの、それ。意味ねぇ。
世界への語り掛け、つまりAPIコールは必要最小限の簡潔さこそが重要だろう。
どうする?いっそのこと無詠唱でストーンライフル使っちゃおうかな?大騒ぎになるかな?
「それでは受験番号を順番に呼びますので、呼ばれた方はこちらに来てください」
私が何の魔法を使おうか悩んでいると、何人目かにアレンの受験番号が呼ばれたらしい。あたりを見回したアレンは私を見つけると微笑んで軽く手を振ってくれた。
受験生の中の女の子たちが騒めいているぞ。自重しろよ、イケメンめ。
「指先から極めて細い水流を高速で射出せよ。ウォーターカッター」
ここの的は金属製で分厚く、絶対に壊れないようにしているとお兄様が言っていた。
でもアレンの魔法はその的を貫通とまではいかないものの中央部をへこませたので威力としてはかなりのものだろう。発動も構えてから1秒くらいで、ほかの受験生と比べると断トツに速かった。ただし、詠唱文の美しさだけはマイナス評価かもしれない。
「アレン君ですね。さすがは侯爵家のお方です。お見事です」
受験番号と個人情報の書かれたリストを見ながら試験官がわざわざ褒めてたけど、ほかの受験生には「はい、次は〇〇番の方」としか言ってなかったよな。
おべっかはいらないんだよ。アレンも不機嫌そうだし、逆効果だよ。
速ければ一人10数秒、遅くとも一人30秒くらいで次々と魔法が披露されていく(魔法発動自体はもっと速いんだけど、試験官が評価を記入するのに時間がかかっている)。
どんどん待ち行列が短くなっていって、ようやく私の受験番号が呼ばれた。
「指先から火の矢を射出せよ。ファイアアロー」
ちょっと多めに魔力を込めて発動したので、そこそこの威力の火の矢が的に当たりはじけて消えた。
筆記試験で高得点が取れた感触があるので、実技試験では目立たないようにするつもりで軽い魔法を選択した。
ストーンライフルの魔法陣を使えばあの的を貫通させる自信はあるけど、アレンが使わなかったんだから私も自重しよう。
試験官の称賛の言葉も無いし、きっと目立ってないだろう。
自分の順番が終わっても試験会場からは退場できない。ほかの人の魔法披露が全て済むまで待機だ。
ルーシーちゃんの順番が来たが、私と同じように短い詠唱文で簡単な魔法を高速で発動しただけだ。うむ、目立たないようにしてるな、ルーシーちゃん。大きな丸眼鏡がチャーミングです。
この子もアレンと一緒に私と魔法の練習をしてきたので、軍人に引けを取らない実力の持ち主に成長している。
本当はもっと高威力の魔法を発動できるのにね。能ある鷹は爪を隠す。
ルーシーちゃんも私のほうを見て、微笑みながら手を振ってくれた。可愛いな、おい。私も目立たないように小さく手を振り返した。
もうすぐ終了という頃になって、さっき友達になったブレンダの順番になった。
前に進み出たブレンダは右手を突き出すと『無詠唱で』魔法を発動した。…って無詠唱?
魔法自体は私が使ったのと同じファイアアローのようだ。威力もそんなに変わらない。でも詠唱をしていなかったことは間違いない。
試験官も驚きに目を丸くしているし、ほかの受験生も同様だ。もちろんアレンやルーシーちゃん、それに私も驚いている。
魔法陣を使ったにしては威力が弱すぎるけど、魔法陣じゃないのかな?
だとしたら私の知らない新たな魔法技術ってことだ。ワクワクするな。




