049 高等学院入学試験①
10歳の誕生日からそろそろ5年。
まだ15歳にはなっていないけど、今年から高等学院へ通う予定だ。1年生の在学中に15歳の誕生日を迎えることになる。
もちろん入試に落ちれば入学できないけど、みっちり家庭教師に教わっている貴族子弟が不合格になることはほとんどないそうだ。
そうそう、10歳のときの帝国工作員事件だけど、帝国からの賠償金は捕虜返還の代金も含めて6千万リアン、つまり60億エントで決着したらしい。
そのうちシュトレーゼン男爵家への慰謝料が1千万リアン、10億エントだったよ。ザグレブ子爵に支払った1億エントを差し引いても9億エントの黒字になったお父様はニコニコしていた。おかげで領内のインフラ整備がはかどったと代官のセバスティアンさんも喜んでいたそうだ。
あと魔法陣については、まだお兄様とアレンにしか伝えていない。
最近では二人とも様々な攻撃魔法の魔法陣が発動できるようになっている。ただし、二人とも古代語が読めないので、私のおすすめって感じで良さげなものを私が紹介している感じだ。
なんといくつかの魔法陣は暗記しちゃってるらしく、以前は魔法陣の紙を片手に発動していたのが、暗記しているものについては何も見ずに高速発動できるようになっている。怖い。
まぁ、私自身もかなりの数の魔法陣を暗記してるけどね。
鑑定魔法、ファイアボール、ウォーターボール、アイテムボックス、マジックサーチ、ストーンライフルなどなど、これ以外にも何個か暗記している。いまだにアイテムボックスだけは毎日使っていないと忘れそうになるけど。
新しい魔法陣の開発については現在ストップしている。結局私が作ったのは、飛行魔法ならぬドローン魔法(正式な魔法名すら付けてない)と探査魔法のマジックサーチくらいだ。マシン語で直接プログラミングするくらい、まじで面倒で大変なんだよ。モチベーションを維持できねぇ。
容姿については、なかなかの美少女に成長したのではないかと自負している。ただし、腰のあたりまで長く伸ばした金髪は後ろで一本に編み込んでいるのだが、洗髪や髪のセットがちと面倒くさい。肩くらいまでの長さにしたいのだけど、貴族家では許されないらしく仕方なく伸ばしている感じだ。
「おはよう、マリア。今日は入学試験の日だね」
「おはようございます、お兄様。ええ今日は合格できるように頑張りますよ」
ふんっと腕を曲げて力こぶ(無いけど)を作る。
お兄様はすでに高等学院生で、今年は進級して3年生になる。しかもシングルランカー、常に10位以内にいるそうだ。優秀なんですよ、ふふ。
「マリアなら落ち着いて挑めば必ず合格するよ。そう言えば今年は平民の受験生も多いらしいね」
「そうなんですか。優秀な人材が入学するのは大歓迎ですね」
「マリアは平民に対して変な優越感とか持ってないから良いけど、学院生のほとんどを占める貴族の中には平民に偏見を持っているものも多い。できれば気を付けてやってほしいな」
最初の家庭教師だったナタリア先生は元平民だったし、そもそも私の前世は庶民だったので平民に対して特別な感情はない。
親友のアレンやルーシーちゃんもそうだ。この二人は私の影響もあるかもしれないけど。
気合を入れて試験会場に向かう。てか、歩きじゃなく馬車でだけど。
会場に到着するとたくさんの受験生であふれていた。みんな掲示板を見てから自分に割り当てられた教室へと移動している。
私も自分の受験番号を掲示板で確認してから指示された教室に入った。
机には番号札が貼られていて、受験番号との対応表が前方にある黒板に掲示されている。
アレンやルーシーちゃんの姿が見えないけど、違う教室なのかもしれない。残念。
まずはペーパーテストを受ける。試験時間は午前中の3時間。内容は4教科(国語・数学・理科・社会)だけど、試験対策はばっちりだよ。
頭を悩ませる問題もなく、余った時間を見直しに使い、合格ラインを越えたことは確信できた。
午前中の筆記試験が終わると昼休みをはさんで午後の実技試験だ。なお、実技については武術か魔法か、どちらか好きなほうで受験できるため、私はもちろん魔法一択です。
防御結界で囲まれた魔法の試験会場に着いて、試験官がやってくるのを待つ。
隣にいた女の子が話しかけてきた。
「ねえねえ、筆記試験はどうだった?私、自信ないんだよね。特に数学って難しかったよね」
ふむ、平民の子かな?えらく馴れ馴れしいが不快ではない。
「そうですね。確率の分野で正規分布や標準偏差の問題が出るとは思いませんでした」
「うー、聞いたことのない言葉がポンポンと…。もしかしてあなた貴族なの?」
「はい、でも気にしないでください。私も気にしないので」
「ええー、大丈夫なの?いや、大丈夫なのでございますか?」
変な敬語になってて、思わず噴き出した。
「笑ってしまってごめんなさい。無理に敬語を使わなくても良いですよ」
「良いのかな?んじゃお互いに敬語なしにしようよ。あ、私ブレンダっていうの。平民よ。名前は呼び捨てで良いわ」
「そうね、分かったわ、ブレンダ。じゃあ私も敬語はやめるわ。私はマリア。よろしくね」
この娘、ブレンダはなかなかに可愛らしい顔立ちをしている。着ているものは質素で平民らしいけど、清潔感はあるな。フレンドリーだし好感が持てる。ぜひ合格してほしいな。
この後、試験官が来て実技試験が始まった。




