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047 アレン・フォン・リヴァストの回想④

 シュトレーゼン男爵家への訪問が解禁されたのでさっそくマリアさんに会いに行こう。

 もちろん手紙のやり取りで訪問を打診してからだ。

 マリアさんが王都に帰還してから約二か月、ようやくこの目で無事を確かめられる。


 久しぶりに会ったマリアさんはいつも通りの笑顔と態度で暗い影など見当たらない。内心ほっとした。

「さっそくだけど、帝国の密偵を撃退した魔法が何だったのか、教えてもらうことはできるだろうか?もちろん秘伝の技術で門外不出というなら強制はしないけど」

 本来は貴族らしくお見舞いの言葉とか色々と面倒なやり取りをすべきなんだろうけど、彼女との距離の近さからすぐに本題に入ってしまった。

 でも彼女はこの質問を予想していたようで、魔法陣が描かれた紙を差し出してきた。つまりは、これが答えか。


「まずはこの魔法陣を細部まで記憶していただけますか?記憶することができたら脳内でこの記号の個所に魔力を流してください」

 そう言われて魔法陣を見る。この複雑な模様を全て記憶する?僕だって家庭教師からは優秀だといつも()められているけど、そこにはお世辞がかなり含まれていることも知っている。

 それでも記憶力には自信を持っている。やってやろうじゃないか。いや、マリアさんができるんだから将来の伴侶たる僕ができないのはまずい。ちなみにマリアさんとは婚約しているわけではないけど、僕の中では確定事項だ(ただし、彼女の意向は聞いてない)。


 頭の中に魔法陣を投影して、マリアさんの言う記号の部分に魔力を流す。

 何も起こらない。記憶の細部が異なっているのか?それとも、魔力を手の先に移動するのではなく、脳内に移動するということがうまくできていないのか?

 ひたすら魔法陣を見つめ続ける。今度は細かい模様に気を取られずに、全体を眺めるようにしてみた。なかなかうまくいかない。

 マリアさんは何も言わず、じっと待ってくれている。(あせ)っちゃダメだ。平常心だ。つい(あせ)りそうになる自分の心を落ち着かせ、ひたすら試行錯誤を繰り返す。


 集中していたためどれだけの時間が()ったのか分からないが、ついにそのときは訪れた。

 魔力を流した瞬間、頭の中に円形の図とそこに散らばる赤い光の点が浮かび上がったのだ。

 それを伝えるとマリアさんは驚くべきことを平然と述べた。

「これはマジックサーチという探査魔法の魔法陣で、自分を中心に半径70メートルの中にいる人間を赤い点で表示する魔法です」


 つまりはこの円の中心が僕で、その中心のすぐ上にある赤い点が僕の真正面にいるマリアさん。斜め後ろにある点が部屋の外に控えているメイドさんかな?

 この魔法自体もすごいんだけど、魔法陣で魔法が発動したことが歴史に残る大発見だと思う。あと詠唱せずに魔法が発動したことも。

「マリアさん、きみは魔法陣の使い方が分かっているということなんだね?これはものすごいことだよ」

 言葉では言い表せないほどの僕の感動をなんとか彼女に伝えたい。すごいとしか表現できない自分の語彙(ごい)力がうらめしい。


 5秒くらい頭の中に円形の図が浮かんでいたが、自然に消えてしまった。魔法の発動が終了したんだろう。

 少しの時間だけ部屋を出ていたマリアさんが戻ってきたとき、その手にはもう一枚の紙が握られていた。


「それでは次はこれを記憶してください。ただし発動は絶対にしないでください。攻撃魔法なので」

 その言葉とともに渡された魔法陣の紙を見て、さきほどの魔法陣よりも楽そうだ(ほんのちょっとだけ)という感想を抱いた。

 要領をつかんだというのもあるかもしれない。

 でもここでは発動できないから試行錯誤で確かめることはできない。本当に記憶できているのかな?

 念のため十分な時間をかけてしっかりと記憶した(つもりだ)。

「一応、記憶できたと思うけど」

「それでは我が家の魔法練習場へ行きましょう。そこで魔法を発動してください」


 この家の魔法練習場は僕もよく使っているので、おなじみの場所だ。

 20メートル先にある木製の的を見つめ、そこに向かって右手を伸ばす。攻撃魔法を撃つ際のいつものスタイルだ。

 例の記号に魔力を流した瞬間、驚くべきことが起こった。注視していた的が粉砕されたのだ。何かが魔法として発射されたことはかろうじて分かったが、目でとらえることができなかった。


「これはすごい。すごすぎる」

 やはりすごいとしか形容しようがない。語彙力低いな、僕。


 マリアさんからこの魔法についての詳しい説明を聞いた。

 ストーンライフル、それがこの魔法の名前。超高速で石を撃ち出す魔法らしい。ストーンバレットの高速版と聞いて納得できた。それにしても目に見えないほどの高速だとは…。

 それでもこれは盗賊、いや帝国軍を殲滅した魔法じゃないらしい。もっとすごい魔法があるのか。その魔法陣はシュミット様に貸しているらしく手元にはないが、今度博物館に行って転写してもらおうと提案された。

 おぉ、マリアさんと二人で博物館デートか。期待に胸が高鳴るな。


 なお、当然のことだが魔法陣については口止めされた。

 今の時点で魔法陣の技術を知っているのはシュミット様とマリアさんだけで、僕が三人目らしい。三人目に選んでもらえて、とても光栄だ。


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