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040 ガルム帝国特務小隊長の回想③

 帝国からの増援が到着した。20名だ。ちょうど失われた戦力の補充分だが、希望としては70名くらいを派遣してほしかった。要請はしたのだが。

 こちらに残った30名と合わせて計50名の戦力では、捕虜の奪還には不足するおそれがある。断腸の思いだが、捕虜になった仲間ともども皆殺しにするしかないかもしれない。


 貴族を監視している第2分隊からの報告によれば、向こうにも増援があったらしい。騎士が合計10騎だ。ほかに魔導師が数人いることも想定しておかなければならない。

 襲撃地点はザグレブ子爵領にある街道が通る森の中に定めた。

 貴族の馬車が森の中に入った段階で用意しておいた木を倒して馬車の前後をふさぎ、周りの木に登らせた兵から一斉に矢を射かける。

 10騎の騎士をこの一撃で戦闘不能にしたあと、四方から馬車へ同時攻撃をかければ向こうの魔導師も対処できまい。

 さらに先の戦闘で使用した強大な火の魔法についても、森を燃やして自分たちを窮地に追い込むだけなので使えないはずだ。

 風の魔法を撃ってきたとしても、木々を盾にすることである程度は防げるだろう。

 負けるはずのない完璧な作戦だ。


 総勢50名全員が森の中で待ち伏せる。戦力の出し惜しみは無しだ。全戦力をもって敵を殲滅する。

 切り倒して街道をふさぐための木の準備も、クロスボウの手配も完了して、あとは貴族の馬車がやってくるのを待つだけだ。


 貴族の馬車が街道のかなり先に現れた。

 徐々に近づいてくるにしたがい、部下たちの緊張も高まっていく。

 もうすぐ森に入ってくると思いきや、なぜか森の入口から20メートルほどの場所で野営を始めた。

 まだ日は高いのになぜだ?気付かれたか?


 森の入口には見張りを立てているが、俺自身で確認するため木々に隠れながら近づく。

 騎士たちは警戒しているようだが、貴族の男はのんびりと娘と話をしているようだ。上玉だな。殺すのが惜しいほどの美しい娘だ。降伏勧告をして無傷で捕まえることができるだろうか。


 なかなか動き出さない。

 休憩は普通せいぜい1時間ではないのか?部下たちも緊張が続くのでイライラしている。こっそり配置を離れて小用をたすものもいるようだ。


 3時間後にようやく動きが生じた。

 騎士たちが横一列になって森の入口を半包囲している。その後ろにはさきほどの娘と、娘より年齢が少し上の貴族の息子のような少年が立っている。

 両者が右手を掲げると信じられないことが起こった。

 大きな火球が生み出されこちらへ飛んでくる。二人で2発…だけでなく次々と撃ってくる。

 やつらの魔力量はどうなっているのだ。人間ではなく化け物ではないのか?


 森の入口からかなり離れた位置から監視していたため、俺のいるところにはまだ影響はないが、街道で待ち伏せする部下たちはあの火球を浴びている。

 断末魔の叫びが次々と聞こえ、耳を塞ぎたくなるような地獄絵図だ。

 入口付近に配置していた部下たちのうち数人は火を逃れるため森から出ては騎士に拘束されている。

 捕虜を消すための作戦でさらなる捕虜を生み出している事実にしばし呆然としてしまう。指揮をとれるような状況でもない。

 できれば森の奥へ部下たちが逃げてくれることを願うしかないというのが現状だ。


 それから二日後、やつらが森を通過していった。おそらく次の街へ向かったのだろう。

 戦闘後いや虐殺後と言うべきか、こちらも生き残りが集結したが10名にも満たない。

 何人死んで何人捕まったのかすら把握できない。分かっていることは50名の小隊が全滅したということだけだ。

 幸いにも俺は生き残ったが、できれば死んだほうがましだった。もはや王国に亡命することを考えたほうが良いかもしれん。帝国に戻れば間違いなく死罪だろう。


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