039 復路での襲撃③
結局、森林火災は次の日になってから勝手に鎮火したようだ。
火災の上昇気流で大気が不安定になり、大雨が降ったことも幸運だった。
森の中の街道沿いを調査すると、金属製のクロスボウが大量に出てきたのには、背筋が寒くなった。
準備万端じゃん。
帝国兵は焼け焦げて人間の形をした炭ばかりだ。火の勢いのすごさが分かる。
数えてみると総勢22名。ここに何人配置されていたのかは分からないけど、予想よりも少なかった。
森の奥へかなりの数が逃げおおせたのかもしれない。
あと、森の外に逃げてきて捕虜になったものが8名なので、それでも合計30名…。やはり戦力としては少ない。
もう一度くらい襲撃があるかもしれないな。
マジックサーチによる警戒は、まだ必要だね。
次の街へ到着し、借り上げた宿の一室で捕虜の尋問が始まった。
お兄様と私も今回の戦闘の功労者として参加が許可された。
新しく捕虜になった8人のうち、比較的元気そうなやつが5人。3人は重体だが治療なんて行わない。死んでも別に構わないのだ。
「さて、お前たちの所属を聞かせてもらおうか」
「森の中で野営していた、ただの商人でございます。いきなり魔法で殺そうとするとは司法に訴えますぞ」
「ふふ、ただの商人が30人も固まっていて、しかもクロスボウで武装していたのか?」
「自衛のための武装でございます。人数が多かったのは、複数のキャラバンがたまたま合流して大所帯になっただけでして」
額に汗をかいてて、目も泳いでいる。あまり訓練されていないのかな?
「今回5人を尋問する予定だが、お前一人だけが自白すればお前を釈放してやろう。しかし、お前が自白せずほかの四人の中で一人でも自白した者がいた場合はお前を死罪にする。拷問付きでな」
尋問担当の騎士さん、それって囚人のジレンマですか?この世界にもあったんだ、ゲーム理論。
「さてもう一度聞こう。お前たちの所属は?」
「…だから、ただの商人です」
「そうか、まぁ良い。次の捕虜に聞いてみよう」
このやり取りを5人全員と個別に行ったが、自白する者はいなかった。まぁ潜入工作員としては当然だな。
捕虜の5人を情報交換できないように別々の部屋に見張り付きで監禁し、翌朝を迎えた。
「今日も楽しい尋問だ。どうだ、自白する気になったかね?」
「自白も何も商人に何をしゃべらせたいのか分かりませんな」
「お前たちがガルム帝国の工作員であることは分かっているんだよ。それとも分かっていないとでも思っていたのかね?」
「まさか。ほかの方々は存じませんが、私は陛下に忠誠を誓う王国民でございます」
「帝国には行ったこともないと?」
「はい。そもそも恥ずかしながら、私はグレンテイン語しかしゃべれませんので」
ここで私が口をはさんだ。
『ガルム帝国の皇帝陛下はすばらしい方のようですね』
『ええ、そう聞いております』
「…あの、私、グレンテイン語ではなくガルム語で聞いたのですが、しっかり理解した上、ガルム語でお返事をいただくとは恐れ入ります」
【全言語理解】の力でガルム語もペラペラですよ。
「おいおい、グレンテイン語しかしゃべれないと言ってたよな。そろそろ認めたらどうなんだ?」
何も答えない。いや、黙秘するしか手は残されていないだろう。
このやり取りをなんと残りの四人全員とやったのにはあきれた。一人くらいは引っ掛かるなよ。帝国には馬鹿しかいないのか?




