036 鉱山の遺跡
それから2時間くらいお兄様と魔法陣の話をした。寝るのが遅い時間になってしまったので、早起きした今朝は現時点で超眠い。
「おはよう、シュミット、マリア。眠そうだが夜更かしでもしたのかい?」
すでに席についている両親を見て、少し遅れて一緒に食堂に入ったお兄様と私はあわてて食卓のテーブルに向かった。
「おはようございます、お父様、お母様。少し寝坊してしまいました」
「おはようございます。私もなかなか寝付けず、目覚めるのが遅くなりました」
正直なお兄様と嘘つきな私だ。別に枕が変わっても寝つきが悪くなるような繊細さは持ち合わせていない。
「そうか。すぐに食事にしよう。今日は遺跡に向かうからね」
遺跡の見つかった鉱山はこの屋敷から馬車で2時間くらいらしい。
遺跡調査に5~6時間使うには、午前中の早い時間帯に出発しなきゃね。
道中は何の問題もなく鉱山に到着した。
「ここは何の鉱山なんですか?」
気になったのでお父様に尋ねてみた。
「銀の鉱石が取れるんだよ。我が家が男爵家にも関わらず割と裕福なのは、この鉱山を持っているからさ」
へぇー、せいぜい鉄鉱石とかだと思ってたよ。
そういえばファンタジー定番の謎金属であるミスリルはあるのかな?
「マリアはよく知ってたね。ミスリルという金属の鉱石はほんの少量、全体の1%くらいは採掘できるよ」
「お父様、ミスリルという金属の性質は人の役に立つものなのですか?」
お兄様もミスリルには興味津々のようだ。
「魔法を通す金属らしい。私も詳しくは知らないが、魔道具職人はよく使うそうだよ」
私の知ってるミスリルと同じような性質らしいな。相良軍曹の所属する組織名じゃないよ。
そんな話をしながら鉱山入口に向かっていると、顔中が髭まみれのおっちゃんが走ってこちらへ向かってきた。
「男爵様、いらっしゃいませ。何か問題でもありましたでしょうか?」
単なる視察なんだけど、抜き打ちの査察とでも思ったのかな。おっちゃんは首から下げた手拭いでしきりに汗をぬぐっている。
「いや、ここで見つかったという遺跡を見に来たんだよ。ワルター、仕事の邪魔をしてすまないね」
おっちゃんはワルターさんというらしい。
ここの責任者とのことだ。
お兄様と私もワルターさんに挨拶をして、鉱山の中へと案内された。
「1番坑道から5番坑道まであるんですが、遺跡が見つかったのは最も新しい5番坑道の途中の横穴でごぜえやす」
ワルターさんの説明に頷きながら5番坑道へと歩いていく。
お兄様や私も中に入れるよね?危ないから待ってろってのは無しでお願いします。
ワルターさんの部下が持ってきたヘルメットみたいなやつを渡された。
「この鉄兜をかぶってくだせえ。上から岩が落ちてきたら危ないんで」
やたっ。これって坑道の中に入れるってことだよね。
お父様、お兄様、私は渡されたヘルメットをかぶり、いよいよ5番坑道に突入だ。
光の魔道具で中が照らされた坑道は半径2メートルくらいの半円なので、大人が立って歩いても問題ない。もちろん私も全く問題ない。10歳児だもんね。
距離的には体感で200メートルくらい歩いただろうか。右側の横穴に入ってからさらに50メートルくらい歩く。
そこに大きな扉が出現した。
「どうやっても開かないし、道具を使っても壊せないんでごぜえやす」
ワルターさんも開ける努力はしたらしい。
扉の横にA4用紙くらいの大きさの金属パネルがあって、そこに古代語が書かれている。
お兄様がなにか言いたげな顔で私を見ているが、もちろん読めますよ。
そこにはこう書かれていた。
『放射性廃棄物保管所
許可なき者の立ち入りを禁ず。
生体認証とパスワード認証の2要素認証なので、パネルに手をかざし、そののちパスワードを思い浮かべよ。
3回認証に失敗するとロックアウトするので注意すること』
やっべぇよ、ここ。扉が開かなくて良かった。
この世界ではキュリー夫人もレントゲン先生もいないので、まだ放射線や放射能についての知識が存在しない。
保管所の中にある元素の種類が不明だが、半減期が数万年とかのやつだったらまだまだ危険だ。
古代文明って約1万年前らしいし。
「扉が開かないのなら仕方ありませんわね。悪用されないようにこの横穴を埋め戻しておいたほうが良いのではないかしら」
そうやってうまくごまかすしかないって。
でも私がここに来て良かったよ。放射線障害とかまじでやばいから。
「そうだな。マリアの言う通り、この横穴は埋めてしまおう。ワルター、手配してくれるかな」
「了解しやした。おっしゃる通りに致しやす」
お父様も私に賛成してくれた。ありがたい。
魔導書は手に入らなかったけど、この危険な施設に入ってまで探す気にはならないな、さすがに。




