032 尋問
まずは魔法を使おうとした男から尋問する。早くしないと死にそうだし。
「お前は魔法使いだな?」
黙秘だ。黙秘権を行使している。この国にそんな権利はないけど。
死にそうになっているせいで拷問しても意味がないと考えたのか、騎士さんたちのリーダーは穏やかに尋ねている。
そこに私が口をはさんだ。
「なぜ防御結界装置などを持っていたのですか?」
怯えた目をした魔法使いの盗賊は私を見た瞬間、地面に這いつくばって震えている。あれ?怯えている?私に?
なんか失礼しちゃうと思いながら、優しく問いかける。
「答えていただかないと、また燃やしちゃいますよ」
にっこり。
「お、俺たちは軍人だ。ほ、捕虜としての待遇を、よ、要求する」
ゼイゼイ言いながらそんなことを話し始めた盗賊。
驚きに目を見開いてこちらを見るアキレス腱断裂男。残り二人の盗賊にはしゃべれないように猿轡をしているのだが、うーうーうなってて何か言いたげだ。
でも軍人って、どこの国の軍人?まさか我が国の軍人じゃないでしょうね?まぁ自分が助かるために嘘八百並べ立ててる可能性もあるけど。
「が、ガルム帝国だ。お、俺たちは、こ、この国で、か、活動する、こ、工作員なんだ」
いちいちどもるので聞き苦しいことこの上ない。
「スパイってことですか?あれ?スパイって捕虜の待遇って受けられたっけ?」
いや、それは前世の話だったかな?
「スパイというものが何なのか分かりませんが、もしもこの男が本当にガルム帝国の軍人だったなら少し厄介なことになりますね」
騎士さんが話に割り込んできた。いや、そもそも尋問に割り込んだのは私のほうだった。
どうやらスパイという単語は無かったらしい。失敗失敗。
「本当に軍人だとするならば、軍用である防御結界装置を持っていても不思議ではないし、魔法使いが盗賊の仲間になっていた説明もつきますね」
「厄介なことって何ですか?」
「国と国との外交問題になるということです。グレンテイン王国からガルム帝国へ正式に抗議するとともに捕虜の引き渡しの協定を結んだりとか、面倒くさい状況になるかもしれません」
ほほう。だったら捕虜など存在しなかったという状況にしたほうが良いのかもしれない。はっ!やばい思考になってるよ、私。
「この男の証言が真実かどうか分かりません。とりあえず先に残りの盗賊を尋問しましょう」
もっとも、大やけどを負ったもう一人はすでに息を引き取っていた。
残すはあと一人。アキレス腱が切れて歩けなくなっていること以外はとても元気そうな盗賊だ。
この男からは色々な情報を引き出せそうだな。
「俺はなにもしゃべらない」
猿轡をはずした瞬間、そう言って口を閉ざした元気そうな盗賊。
本当に工作員だとしたら正しい行動だな。敵に捕まってペラペラ情報を漏らすようなやつが他国への潜入工作員になれるはずもない。
でも、お父様と騎士さんたちがとても良い笑顔でなんか怖い。
「メアリ、シュミットとマリアを連れて馬車の中で待機していなさい。護衛として騎士を3人残していくから」
そう言ってお父様と騎士リーダーさんはアキレス腱断裂男を山の藪の中に引きずっていった。
馬車の中にいても悲鳴が聞こえるんだけど。こえぇよ、お父様。
しばらくして帰ってきたが、盗賊には大きな布をかぶせていて私たちの目に触れないようにしている。
何があったのかは聞かないほうが良さそうだ。触らぬ神に祟りなし。




