表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/303

031 盗賊イベント再び

 うちの領地、シュトレーゼン男爵領に入ったが、男爵邸のある領都まではあと一日はかかるとのこと。

 何も起こらず退屈なので、見えるもの全てに鑑定魔法をかけまくっている。てか、それくらいしかすることがない。つれぇ。

 代官が優秀なのか、うちの領に入ってからは街道がかなり整備されているのが分かる。上下動が少なくなって助かるよ。


 片側が木の生い茂った山で、そのすぐ脇に街道、その反対側には麦畑が広がっている。

 山の中からいきなり数人の盗賊らしき格好の男たちが現れた。5人ずつだが馬車の前後を挟むように現れたため、逃げるならば街道をそれて麦畑のほうへ行くしかない。

 しかし、こちらには騎士が馬車の前に2騎、後ろに2騎いるので盗賊程度なら対処できるだろう。

 …と思ったら、さらに盗賊が麦畑のほうから20人くらいせまってきた。待ち伏せされてたのか?

 これはかなりやばい状況じゃないかな。人数差で押し込まれる気がする。


「お前たちは馬車の中から出てはいけないよ」

 そう言うとお父様は馬車を降りて抜剣した。

 こちらの戦力は騎士4名とお父様だけ。非戦闘員はお母様とメイド2名。

 お兄様と私はどうかって?もちろん戦力ですよ。12歳児と10歳児だけど。

 馬車から降りなきゃ良いのよね?では窓から魔法を撃ちましょう。


 馬車の前後の盗賊は騎士とお父様で対処してもらって、お兄様と私は側面からせまる20人を馬車の窓から魔法で殲滅すれば良いよね。

「おい、お前ら。おとなしく降伏しやがれ。女だけは殺さないでおいてやる。まあ輪姦(まわ)すけどな」

 がらの悪そうな汚い恰好のおっさんが降伏勧告をしてきたが、当然拒否だ。反吐(へど)が出る。

「お兄様、麦畑に被害を出さないように風魔法で攻撃しましょう」

「そうだね、マリア。側面の敵は僕たちで倒そう」


 詠唱を行って魔法を発動する。

「前方に空気の断裂を生じさせよ。エアーカッター」

 盗賊たちの周辺に真空が発生し、かまいたちの現象によって皮膚が切れていく。切れた位置によっては致命傷になることもあるのであなどれない魔法だ。

 なお、もともと風系統に分類される魔法の殺傷力は高くない。せいぜい強風で吹き飛ばすくらいだ。

 しかし、私の開発した真空断裂魔法は、風を吹き出すよりも少ない魔力量で発動できるので連発することもできるし、殺傷力も高い。コスパが良いのだ。


 お兄様と一緒にエアーカッターを連発する。

 麦畑が血に染まるが、この麦はできれば食べたくないな。もう火魔法で燃やしちゃうか。

 側面からの攻撃はお兄様と私の魔法で食い止めているのだが、なぜか騎士さんたちが苦戦している。盗賊の戦闘力が思ったよりも高いようだ。本当に盗賊か?

 早く側面の脅威を排除して騎士さんたちの援護に入りたい…と思ったら、そう簡単には終わらなかった。


 なぜかエアーカッターの影響が及んでいない盗賊が数人いる。

 まさか盗賊ごときが軍用の防御結界装置を持ってる?

 しかも立ち止まって魔力を練っている者もいるようだ。声は聞こえないが口が動いているので詠唱しているみたいに見える。やばい!こちらには防御結界がないので攻撃魔法をもろにくらっちゃうよ。

 考えていた時間はわずかだった。

 私は脳内にファイアボールの魔法陣を思い浮かべ、すぐに魔力を供給して起動した。

 馬車の窓から突き出した手の先から直径1メートルほどの大きさの火球が出現し、盗賊側の魔法使いに対し発射された。いけるか?それとも防御結界にはじかれるか?


「え?無詠唱?」

 お兄様が隣で驚いているが、こちらは気にしている余裕などない。

 馬車から30メートルほど先へ着弾したファイアボールは、その周辺にいた10数名の盗賊たちを一瞬で火だるまにした。詠唱中だった魔法使いも燃えている。防御結界は突破できたようだ。

 てか、うちの魔法練習場で攻撃系の魔法陣を試さなくて良かったよ。防御結界意味ないじゃん。いや相手が携帯用の防御結界だったから突破できたのかもしれないな。


 すかさず次はウォーターボールの魔法陣に切り替えて発動。

 残った盗賊を水で吹き飛ばすとともに麦畑の火災を消し止めた。こちらも1メートルはある水球で詠唱魔法では不可能なくらいの規模だった。

 騎士さんたちやお父様と戦っていた盗賊は一瞬唖然としていたが、即座にばらばらになって山のほうへ逃げ出した。撤退判断が優れている盗賊だ。

 まぁ、これで戦闘終了で良いのかな?


 麦畑には焼け焦げて死んでいる盗賊がたくさんいてちょっと心がやばい。

 初めて人を殺したんだよね、私。

 馬車を降りてお昼に食べた胃の中身を街道脇にぶちまけた。貴族令嬢っぽくないけど仕方ない。

「大丈夫かい?マリア」

 お父様から声をかけられるが、答える余裕もない。


 馬車を降りてきたお母様に背中をさすられているうちになんとか落ち着いてきた私。盗賊なんかに人権はない。あいつらは獣と同じだ。正当防衛だ。

 自分を正当化する理屈を唱えていると次第に嫌悪感が薄れてきた。まぁ人殺しに慣れるってのは、それはそれで問題あるけど。

 しかし、あいつら弓で遠隔攻撃しなかったな。待ち伏せするならば初撃は弓による攻撃ではないのか?

「弓は矢の消耗という問題、つまりコストがかかるからね。普通の盗賊はだいたい剣だけだよ」

 お父様が私の疑問に答えてくれた。


 騎士たちは麦畑のほうへ行き、まだ息のある盗賊を馬車のほうへ連行してくる。

 3人は生きていたようだ。

 一人は足首のアキレス腱をエアーカッターで切られて動けなくなり、おかげでファイアボールの攻撃範囲からはずれたもの。

 あと二人は大やけどを負っているもののすぐに消火したためかろうじて生きているもの。気管をやけどしたのか喉からヒューヒュー音が鳴っていて苦しそうだ。

 相手の魔法使いもなんとか生きていたが、この様子では魔力を練って魔法を発動することはできないだろう。


 なお、魔法の使えないお父様やお母様は気にしていないが、お兄様だけは何か私に言いたそうにしている。魔法陣を使うと無詠唱になるからその件と、魔法の規模(威力)について聞きたいのだろう。私もお兄様の立場だったら聞きたくなるし。

 しかし、まずは犯罪者への尋問だ。色々と確認しなければならないことがある。防御結界装置を持っていたことや魔法使いが仲間にいることなど。

 魔法使いは盗賊なんかやらなくても就職には困らないほどの希少職だ。なぜ盗賊なんかに身を落としたのだろうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ