296 対空魔道具の開発②
まぁ何事も実験してみないと分からない。紙に描いた対空魔道具の魔法陣を工房長のクラレンスさんに渡して魔道具化を依頼した。
発動できるかどうか分からないので、せっかく作ってもらっても無駄になる可能性もあるんだけど、そこは事前に了解しておいてもらったよ。
一週間後、試作品が完成したとのことで、職人たちと一緒に王都郊外で発射実験を行うことになった。同行するのはクラレンスさん、シャルロッテさん、アレンの3人だ(リヒャルトさんは蒸気機関にかかりっきりになっているので珍しく欠席)。
「それでは発射します」
私が対空魔道具を上空(斜め上)に向けて発射した。なお、秒数の設定はラジオボタンによる選択になっている。10個並んでいるボタンはどれか一つだけが押し込まれた状態になっていて、左端の0.8秒後のボタンから右端の1.7秒後のボタンまで0.1秒刻みで10段階を選べるようになっているのだ。つまり、距離としては800メートルから1700メートルの間だね(重力加速度や空気抵抗を考慮しない概算だけど)。
私は右端の1.7秒後を選択した状態で砲弾を発射した。てか、発射に成功した。
はるか上空(45度の角度で発射したので、距離1700メートルをルート2で割って高度は約1200メートルくらいかな?…もちろん概算ね)で爆発が発生し、散弾が撒き散らされたのだろう、うっすらと球形の雲状のものが見えたよ。
別のラジオボタンを押し込み、次々と10段階の設定を試していった。どんどん爆発が近くなってくるのはちょっと恐怖だね。
あとは地上においた的とその前に置いた防御結界装置(共和国製)を目標に散弾が防御結界を抜けるのかどうかを実験する。直撃なら確実に抜けるだろうけど、問題は飛散した直径6ミリメートルの粒が防御結界を抜けるのかどうかだ。
いざ発射と意気込んで引き鉄を引いた私だったんだけど、うんともすんとも反応しない。
「あれ?クラレンスさん、これって壊れたのかな?」
「お嬢、ちょっと見せてみな」
クラレンスさんが私の手から対空魔道具を引ったくり、中を開けて確認し始めた。
「ああ、なるほどなー。そういうことか」
試作品なので魔法陣を封入している箱に耐タンパ性(箱を開けると壊れる仕組み)は組み込んでいない。クラレンスさんは魔法陣を確認すると私にそれを示した。
「ほら、お嬢、見てみな。魔法陣を構成するミスリルの線が一部溶けてしまっている。一度に流れる魔力量の大きさに耐えきれなかったみたいだな」
「えぇ!それってなんとかできるのかしら?」
「そうだな。負荷のかかる部分をもっと太い線で構成するか、いや魔法陣全体を太い線で作るべきか…。その場合、魔法陣がもっと大型化することになるけどな」
そっかー、なるほどね。うーん、この状態でも10発の発射には耐えられたわけだけど、さすがに使い捨ての魔道具として製品化はしたくないからね。大型化もやむなしか。
「ふっふっふ、こんなこともあろうかと…。あぁこのセリフを一度は言ってみたかったんですよね」
いきなりシャルロッテさんがしゃべり始めた。大きなカバンを下げているなと思っていたら、その中から縦横が従来の2倍(面積比で言えば4倍)の魔法陣を取り出した。
「工房長、その魔法陣をこちらと交換してください。筐体に納めることはできませんから、剥き出しの配線になりますけど」
かなり太い線で描かれた魔法陣だけど、それって対空魔道具の魔法陣?
呆れ半分、感心半分でクラレンスさんがシャルロッテさんを見ていたけど、すぐに魔法陣の交換作業を始めた。
ほどなく交換作業も終了し、発射実験の再開だ。
「配線が剥き出しで危ないから、僕が発射するよ」
私が対空魔道具に触ろうとするとアレンに横取りされた。まぁ良いけどね。
先ほどと同様に10段階の時間設定で10発を放ち、そのあと地上目標への発射実験を10回以上行った。結論を言えば、共和国製防御結界装置による防御結界を6ミリ粒の散弾が抜けることが確認できたよ。よしっ!
さらに魔法陣の状態も線が溶けることもなく、問題なく連続発射に耐えている。
あとはこの試作品を製品化してもらうだけだね。王国軍に納める分と帝国軍に貸与する分を合わせて100台くらいあれば良いんじゃないかな?