295 対空魔道具の開発①
王都に帰還した私たちはその足で王宮へ向かった。
あらかじめ通信魔道具で連絡を入れていたので、すぐに国王陛下への拝謁が実現したよ。
「マリア嬢、そなたも忙しいことよのう。帝国、共和国また帝国と席の温まる暇もないな」
「はっ、ご心配いただきまして恐縮でございます」
「アレン殿やミカ嬢もご苦労であった。マリア嬢と付き合うのも大変だろう」
国王陛下のお言葉にアレンが返答した。
「いえ、全く問題ありません。マリアは何をしでかすか分かりませんので、目を離すことができません」
ちょっと、アレン。私が幼い子供みたいじゃないか。失礼な奴。
「私はマリア様とともに行動できることこそが幸せでございます」
うん、ミカ様は良い子だね。アレンも見習え。
「ふふ、そうか。信頼できる仲間というのは良いものだな。して、今回は帝国と共和国の講和に関しての話かな?」
「はい、ご明察でございます。我が国が講和の仲介を行うことを献策申し上げます」
「貴族の反発が予想されるが、どうする?おそらく鼎の軽重を問われることになるぞ」
「シュトレーゼン伯爵家の強硬な主張により…とでもおっしゃっていただければ」
お父様やお兄様には悪いけど、うちの家が悪者になることで丸く収まるならそれがベストだね。てか【全言語理解】すごいな。この世界に鼎って存在しないはずなのに。
「ふむ、両国に恩を売るという意味では我が国にも利のある話か。分かった、仲介役を引き受ける方向で調整しよう」
「ありがたき幸せにございます」
うん、これでシゲノリ大佐への援護が一つ片付いた。あとは対空兵装をどうするかだな。
王宮を辞して自宅に戻った私は、家族への挨拶もそこそこに工房の研究室にこもった。
防御結界装置で防御できない攻撃は二つある。一つは魔力量(威力)を大きくすることで、もう一つは物理的な攻撃だ。
魔法で爆発現象は発生させられるのだから、その爆発力を使って物理的な砲弾を撃ちあげたら良いんじゃないかな?さらにその砲弾には魔法陣を仕掛けておいて、発射から一定時間後に爆発するようにしておけば破片効果で航空魔道具を落とせるはず。破片は魔力で構成されているのではなく物理的存在だから、防御結界装置は無意味になる。
欠点は大砲及び砲弾の製造に高い精度と時間が必要なことかな。しかも砲弾一発当たりの単価が高いってのも問題だ。大量生産も難しいしね。
うーん、てことはやはり魔力量を増大させたアンチエアクラフトガンの魔法を魔道具化するほうがお手軽かもしれない。その線で考えてみるか。
アンチエアクラフトガンの魔法は以下の仕様で魔法陣を描いた。
・口径:20ミリメートル
・砲弾長:60ミリメートル
・初速:1000メートル/秒
・定めた秒数後の爆発:オン(砲弾を構成する魔力を10%火属性に変換し、残りの90%を直径6ミリメートルの粒に分解して拡散させる)
・モース硬度:5
・爆発するタイミング:発射時に秒数をパラメータ入力する
・魔力量:600
最も簡単なのは、モース硬度の値を大きくすることだな。それにより魔力量が増大し、貫通力も上がるはずだからね。
あと、魔道具化するにあたって爆発タイミングの秒数入力をどうするかを考えなくちゃいけない。つまり、入力インタフェースの問題だ。
何事もトライ&エラーなので、とりあえず対空魔道具の仕様を以下のように変更してみた。
・口径:20ミリメートル(変更なし)
・砲弾長:60ミリメートル(変更なし)
・初速:1000メートル/秒(変更なし)
・定めた秒数後の爆発:オン(砲弾を構成する魔力を5%火属性に変換し、残りの95%を直径6ミリメートルの粒に分解して拡散させる)
・モース硬度:8
・爆発するタイミング:入力インタフェースにより設定された秒数後
・魔力量:2400
モース硬度が8、つまりタングステン以上ということはミカ様専用の精密射撃装置と同じなので、おそらく共和国の防御結界装置を抜けるはずだ。
さらに爆発時の炸薬量はTNT換算で100キログラムから400キログラムへと4倍になっているので、破片の拡散範囲や初速も向上していると思う。
ただ一つの懸念は魔力量が戦略級魔法に匹敵する大きさなので、魔道具として問題なく発動できるかどうかだけだね。てか、これが魔道具化できるなら戦略級魔法も魔道具化できちゃうことになる。やばいかな?