294 シゲノリ大佐の愚痴
『こういうことを任せられそうな人間が軍や参謀本部にいらっしゃるのでしょうか?』
私の問いに宰相様が答えた。
『これほどの深謀を任せられるのはあの男しかおるまい。今はそなたの部下であるシゲノリ大佐だ。かの者を昇進させて少将となし、作戦案を立てさせるとしよう。陛下もそれでよろしゅうございますか?』
『うむ、あの男ならやれるやもしれぬな。よし、すぐに辞令を交付せよ』
『はっ、かしこまりました』
ここで私がもう一つ付け加えた。
『我が国が講和の仲介を行うよう、国王陛下に働きかけてみます。成否は確約できかねますが』
ここで珍しくアレンが口を挟んできた。
『マリア・フォン・シュトレーゼンの意向であると言えば王国の貴族連中は確実に黙るはずですので、まず大丈夫ではないかと思われます』
『はっはっは、そなたはそれほどに恐れられておるのか。いや、さすがは余の見込んだ娘よ。頼もしい限りだ』
私はアレンを横目で睨みつけてやったんだけど、何食わぬ顔をしているよ。まったく、もう。
この会見のあと、通信魔道具でシゲノリ大佐にこの件を連絡し、すぐに帝都ガルムンドへ戻るように伝えた。
大使館の責任者が不在となるのは別に良いんだけど、国王陛下への講和仲介のお願いがあるので私もすぐに王都へ戻ることになる。シゲノリ大佐とは旅の途中ですれ違うことになるだろう。
そして帝国側の国境の街で帝都へ戻るシゲノリ大佐と落ち合うことができた。
大使館の予算で購入した自動車を運転してきたシゲノリ大佐は護衛もつけていない。大丈夫なの?まぁ、一応自衛用に自動連射装置を渡しているけどね。
『サクラ、お前はまた厄介なことに俺を巻き込みやがって。宰相から話を聞いてめちゃくちゃ混乱したぞ。誰の策かと尋ねたら予想通りお前だったときには、俺は無関係だと叫びたくなったわ』
『あっはっは、お兄ちゃん、若いときの苦労は買ってでもせよって言うじゃん』
『若くねぇよ!』
『まあまあ、帝都に戻ったら少将の辞令が交付されることになっているし、それで勘弁してよ』
『はぁ?少将だと?昇進が早すぎるだろ。比例して責任も重くなってくるから喜べないっつーの』
『この仕事が終わったら軍を退役して、正式に駐グレンテイン王国帝国大使に就任できるように私から皇帝陛下にお願いしてあげるからさ』
思いがけない提案だったのかシゲノリ大佐が目を白黒させている。しかも転任の無い恒久的な大使職ってことにしてあげれば、きっとシャルロッテさんとも結婚できるはずだ。
『とにかく講和の仲介と共和国製航空魔道具への対処に関しては私のほうで何とかしてみるから、お兄ちゃんも終戦工作を頑張ってよ』
『むむ、そもそも俺に拒否権など無いから仕方ないが、俺の妹としてお前も協力してくれよな』
妹ってのは嘘設定なんだけど、今ではこの役割が自然に演じられるようになっているよ。不思議な感覚だ。