292 顔合わせ
王都への帰路については特に何の問題も発生せず、うちの屋敷へと帰宅した。なお、今回はグレンテイン王国の仕事じゃないから王宮には報告へ行かないよ。
で、少しだけ王都に滞在して旅の疲れを癒したあと、すぐに帝国へ出発することになる。なにしろ、急がないと高等学院の入試に間に合わなくなるんだよ。もちろん、ミカ様の。
工房の仕事としては、工房長であるクラレンスさんから魔石計測器に関する製品化報告を聞いたり、蒸気機関研究棟の責任者に任命したリヒャルトさんの研究報告を聞いたり、シゲノリ大佐との仲の進展具合をシャルロッテさんから聞いたり(って、これは仕事じゃないけど)と報告を聞くだけでも大変だった。
なお、大使館の職員はシゲノリ大佐が面接して良さげな人(グレンテイン語とガルム語のバイリンガル)を数人雇ったらしい。私も大使として一応彼ら彼女らに挨拶したよ。全員、若すぎる大使に驚いていたけどね。
ちなみに、今回の帝国行きの同行者はアレン、ミカ様、リード殿下、ユーリ氏でルーシーちゃんは留守番になった。ガルム語ができないから仕方ないね。
「今度はガルム語の特訓を致しますわ」
ルーシーちゃんが意気込んでいたけど、そうそう帝国に行く用事は無いと思うよ。
12月の初旬、王都を出発した私たち一行は、新年早々にファインラント領を再訪した。スケノリ・カバーヤ総督とチュージ親分には通信魔道具で連絡していたので、領都の入口で二人に出迎えられたよ。
『お待ちしておりました、ミカ・ハウハ様。サクラ嬢やサネユキ殿も久しぶりだな』
カバーヤ総督の出迎えの言葉にミカ様が答えた。
『はい、以前は身の上を隠したままで失礼しました。この度、代官となる者を連れて来ましたのでご紹介します。旧ファインラント王国第二王子であったリード・ファインラント殿とその側近であるユーリ・ウコンネル殿です。お二方とも平民としての待遇で大丈夫ですので、どうぞよろしくお願いします』
今回は私の姪のアカネではなく、領主ミカ・ハウハとしてのきちんとした挨拶だ。
『ミカ姫様、お久しぶりでごぜぇやす。お元気そうでなによりでございやす』
『チュージ親分もお変わりないようで良かったです。これからは私の従兄弟を手助けしてあげてくださいね』
なお、このへんの人間関係や私たちの偽名について、リード殿下やユーリ氏には旅の間に説明済みだ。
『リード・ファインラントです。代官としては右も左もわからぬ新参者でございますが、ご指導のほどよろしくお願い致します』
『ユーリ・ウコンネルです。リード様を補佐する立場となります。今後ともよろしくお願い申し上げます』
ユーリ氏の腰は元々低かったんだけど、リード殿下は以前はかなり偉そうにしゃべっていた。その口調が矯正されて謙虚な感じになっているね。
『はい、しっかり引き継ぎさせていただきます。総督府には優秀な人材が揃っていますので、領地運営に支障をきたすことはないと思いますよ』
カバーヤ総督が彼らに抱いた印象は悪くなかったようで、ほっとした。
顔合わせも無事に終わったので、私たち(アレン、ミカ様、私)はこのまま帝都ガルムンドへ赴き皇帝陛下に挨拶をしてからグレンテイン王国へ帰国する予定だ。
新領主と新代官の歓迎会をカバーヤ総督のほうで手配してくれているみたいなので、少しだけファインラント領に滞在するけどね。