291 首都ヨーク
私たち(アレン、ルーシーちゃん、ミカ様そして私)とリード殿下、ユーリ氏の六人は、昼食をとりながらグレンテイン語を共通語として会話している。
「こんなことをお願いするのは虫のいい話だと自覚しているのだが、彼らもこれまで余を支えてきてくれた者たちなのだ。なんとか身の立つようにしていただけぬだろうか」
リード殿下の言う彼らとは、排除した側近たちのことだ。うーん、優しすぎる。
これに対してユーリ氏が言った。
「殿下、彼らは今まで何の役にも立っておりませんし、金遣いの荒さから逆にこちらに迷惑をかけていたほどでございます。配慮は無用かと存じます」
「そうは言っても7年間だぞ。それだけ長く、ともに歩んできたのだ。無下にもできまい」
でもあいつら、働かないって宣言していたしなぁ。働かざるもの食うべからずだよ。
「彼らが心を入れ替えて誠心誠意頼んでくるようなら考えましょう。こちらから歩み寄る必要はないと思います」
このミカ様の言葉がとりあえずの結論となった。
リード殿下はミカ様の部下となる自覚がきちんとあるのだろう。特に抗弁することは無かった。
「それよりも彼らが破落戸を雇って私たちや殿下、特にユーリ氏を襲撃するようなことも考えられますよ」
私の言葉にアレンも同意した。
「彼らの言動を見るとその可能性もありそうだね。このあと、共和国の窓口となっている人との折衝があると思うんだけど、ついでに官憲に護衛を依頼するかい?」
「そうだね、護衛は必要かもしれない。特にユーリさんは危ないかも」
私の言葉にユーリ氏が肩をすくめた。同様の懸念を感じているのだろう。このへんの危機意識なんかも大したものだよ。
結局、話し合いの末、まずは折衝窓口となっている上院議員を通じて共和国政府の責任者と会談し、亡命政府の解体とリード殿下のファインラント領行きを伝えること。その間、リード殿下とユーリ氏にはこのホテルに滞在してもらうこと。現在、亡命政府の拠点となっている屋敷へは官憲の護衛とともに向かうことなどが決定された。
そしてこれらの事務手続きが全て終了したのがこの会見から一か月後のことだった。超面倒くさかったけど、アレンやルーシーちゃんの助けもあり何とか終わったよ。
ちなみに、例の非難声明の一件で共和国政府はファインラント亡命政府をすでに見限っていて、解体の申し出はすんなりと受け入れられたよ。これは結果的には(ユーリ氏を除く)側近たちの功績かもしれないね。
ハルナ平原における休戦状態を帝国との講和に持っていくためにもこの亡命政府は邪魔だったから(大義名分に使った手前)、共和国政府としては渡りに船だったようだ。
なお、亡命政府の拠点として提供されていた屋敷を二週間後までに明け渡すことになったんだけど、行く当てのない元・側近たちはどうするつもりだろうね。アメリーゴ語も話せず、住むところも無くし、金も無い。野垂れ死にへと一直線だよ。まぁ、自業自得だけどね。
余談だけど、三輪自動車の後部座席は4つで、運転手を含めた定員は5名だ。なのでアレンが最後尾の座席を長椅子タイプに変更して、3人が横並びに座れるように改造してくれた。ちょっと窮屈だけど、私とルーシーちゃんとミカ様が並んで座る予定だ。運転席のすぐ後ろはリード殿下とユーリ氏に座ってもらうわけだね。6人だけどなんとかなるだろう。もしも推進力が不足するようなら、アイテムボックスから船外機を取り出して後部に設置すれば良いかな。
あと、仕事の合間にこの都市(もはや街というレベルじゃない)を観光できたのは良かったよ。ただし、10階建て以上の高層建築は珍しくないんだけど、エレベーターもエスカレーターも無いので上り下りが大変だった。でも、珍しい物産品が多かったので、どんどん購入してはアイテムボックスに放り込んだよ(お土産だ)。残念ながら魔道具で目新しいものは無かったけどね。
そうして冬の寒さが日に日に厳しくなってくるころ、ようやく帰国の途に就くための準備が完了した。
「それでは出発しましょう」
私の言葉にアレンが自動車を発進させた。さすがに過積載気味なので、加速はゆっくりだ。私たちはゆっくりと流れる街並みを眺めながら首都ヨークを後にした。7年も住んでいたリード殿下やユーリ氏にとってはきっと感慨深いものがあるだろう。
あ、元・側近たちは屋敷の退去期限を過ぎても居座り続けたため、官憲に不法占拠罪(正確には不動産侵奪罪かな?)とかで逮捕されたらしいよ。どうでも良いけど。