290 亡命政府との会見②
『男爵風情が我ら高位貴族に意見できると思っておるのか。身の程をわきまえよ』
激高して喚いているリーダー格の男。瞬間湯沸器だな、こいつ。
どうやらユーリ氏の家格が最も低いみたいだね。苦労人だからこそ人間ができているのだろう。
私はリード殿下を正面から見て話し始めた。
『王子殿下のご意思をお聞かせください。他の者が何を言おうが雑音に過ぎませんので、お気になさらず。殿下自身がどうしたいのかが重要です』
ここでリーダー格の男が話に割り込んできた。
『雑音とは何だ。そもそもマリアとやら、お前はどういう立場でここにいるのだ?どうせミカ様の腰巾着であろうが』
ふむ、殿下の腰巾着に言われたくないね。まさに虎の威を借る狐だよ。
『それに我らの意思こそが殿下のご意思となるのだ。貴族社会のことを何もわからぬ平民風情が…。黙ってそこに控えておれ』
あ、ミカ様の怒りの波動が伝わってくる。やばいなぁ。
仕方ない。ちょっとこいつらを黙らせるか。私は殺気を込めた威圧を放ちながら言った。
『少しは黙ってろ』
うるさかった側近たちは口をパクパクさせながら言葉を発することができなくなり、顔色も真っ青になった。
私は菊水紋のプレートをアイテムボックスから取り出して、対面に座っている殿下や側近たちに見せながら話し始めた。
『この紋章は私が帝国皇帝ゲンタロー・ガルム三世の親族であることを証明するものです。また、ガルム帝国の全権大使も拝命しています。つまり私の言葉は、帝国皇帝の言葉だと思っていただいて結構です。ゆえにここで宣言します。ファインラント領の領主にミカ・ハウハ様以外の者が就任することはないと』
ここで一拍置いて、殿下や側近たちを見渡した。ユーリ氏が驚愕の表情になっている。いや、シュトレーゼンのほうが本当で、皇族ってのが嘘なんだよ。
『さて、もう一度お聞きします。リード殿下、あなたはどうしたいのですか?』
『うむ、余は、余は…祖国に帰りたい。代官としての仕事をこなせるのか、祖国の人民に受け入れてもらえるのかなどの不安要素はある。しかし、余自身の思いとしては、ファインラントへ帰るためにできることは何でもしたい』
『王族でも貴族でもなく、ただの平民という立場になりますよ』
『もちろん分かっておる。そもそもこの者らもすでに貴族ではないし、余も王族ではないのだ。ただ、偉そうな口調は癖なので許して欲しい』
『よく分かりました。それではリード・ファインラント殿下をファインラント領の代官として、ユーリ・ウコンネル氏を代官補佐としてガルム帝国皇帝の名のもとに認めましょう』
満面の笑みでそう宣言した私は、微笑んでいるミカ様を見てその意思を確認した。ミカ様も賛成のようだね。よし、これにて一件落着。
『ちょ、ちょっと待て。いや待ってください。我々にも何か役職が与えられるのですよね?』
『はぁー?無能は不用ですよ。あ、それから亡命政府は解散しますので、共和国からの生活費等の援助も無くなるでしょう。あなたがたは何か仕事を見つけて自活してください。働かないとスラム街で路上生活を送るはめになりますよ』
『そ、そんな。我らは貴族だぞ。下々の者らと一緒に働けるものか。何とかしろ。いや、してください』
『あなたがたは貴族ではありません。ただの平民です。リード殿下もおっしゃっていたではありませんか』
『ま、マリア様、帝国貴族にしていただくわけにはいきませんか?お役に立ちますぞ。帝国のために身を粉にして働く所存であります』
おいおい、ミカ様を帝国側についた裏切り者と呼んでいたのは誰だ?
『話は終わりです。リード殿下とユーリ氏は旅立ちの準備をしてください。私たちと一緒にグレンテイン王国に向かい、そのあと帝国に入国してからファインラント領へ行くことになります』
まだ色々と喚いている側近たち(いや、元・側近か)を無視して、ホテルの会議室を出た私たちだった。
せっかくなのでリード殿下とユーリ氏を食事に誘い、ホテルの食堂で一緒に昼食をとることにした。側近たちも勝手に混ざろうとしたので、ホテルの警備員に言って追い出してもらったよ。
私が会議室での会話の内容をグレンテイン語に翻訳してアレンやルーシーちゃんに聞かせてあげていると、リード殿下がグレンテイン語で話しかけてきた。驚いたな。どうやらリード殿下とユーリ氏はアメリーゴ語はもちろんのこと、グレンテイン語も話せるらしい。
どうでも良いけど、排除した側近たちはファインラント語しか話せない(アメリーゴ語すら学ぼうとしなかったらしい)ので、共和国との折衝はユーリ氏が一手に担ってきたとのこと。あいつら本当に使えねぇな。