283 工房にて
王都帰還の翌日、私は工房で職人たちに蒸気機関のサンプルを手に入れたことを報告した。
「船に積まれているものよりは小型なんですが、帝国の技術で作られた蒸気レシプロエンジンと蒸気ボイラーなどの一式を帝都の鍛冶屋から買い取りました。今は設置する場所が無いのでお見せすることはできませんが、研究棟を建てたらそこに設置する予定です」
「お、お嬢様、どこにあるんですか?ぜひ見せてください」
リヒャルトさんが大興奮だよ。まぁ分かるけど。
「うーん、今ここには無いんですよ。建物が出来上がったら搬入しますので、そのときは設置を手伝ってくださいね」
アイテムボックスに入っているとは言えないからなぁ。ちなみに、燃料である石炭も大量に購入して、同じようにアイテムボックスに入れているよ。
なお、高射砲の魔法であるアンチエアクラフトガンを魔道具用に描き変えた魔法陣を渡して魔道具化を依頼するつもりだったんだけど、それは取りやめた。ハルナ平原会戦の終盤において、この魔法はほぼ無力化されてしまったからね。対空魔道具の開発については、もっと別のアプローチで実現するつもりだ。
「そう言えば飛行機械の製造は順調なの?」
私のこの問いに工房長であるクラレンスさんが答えた。
「お嬢が帝国に行っている間に、王国軍からの発注分10機は全て納品したぜ。シュミット様の指導で操縦手も養成できているし、航空部隊としての運用もそろそろ開始できるって話だ」
「そっか、良かった。お兄様に言って、飛行訓練を見学させてもらおうかな」
そうだ。そのときはシゲノリ大佐も一緒に連れていってめっちゃ自慢しようかな。ふふ、驚く顔が目に浮かぶよ。
あとはシャルロッテさんだな。私はシャルロッテさんだけを別室に連れていって内緒話を始めた。
「ねえ、シャルロッテさん。プライベートなことを聞いて申し訳ないのだけど、お付き合いしている人とか結婚する予定とかは無いのかな?」
「恋人も婚約者も結婚の予定もございませんね。この歳ですのでもう諦めていますよ。マリアお嬢様、いきなりどうされたのですか?」
「うん、私がばらしたってことは秘密にしておいて欲しいのだけど、実はね…」
私はシゲノリ大佐の学生時代の初恋の話や、王国へ亡命するつもりだったことなどを教えてあげた。さらに今でもシャルロッテさんに好意を抱いているってことも。
「あらあら、まあまあどうしましょう。こんなおばさんで良いのかしら」
「シャルロッテさんはめちゃくちゃ若いよ。てか、何でそんなに若く見えるの?謎だよ」
どう見ても20代だよ。いわゆる美魔女ってやつ?
まぁ、私にできるのはここまでだ。あとはシゲノリ大佐の頑張り次第だね。ファイトだよ、ヨシフルお兄ちゃん。