276 強盗団
領軍を名乗る兵士全員をロープで後ろ手に縛り、そのあと治癒魔道具で治療してあげた。一応、上の命令に従っただけであって、悪人かどうかはまだ分からないからね。
負傷した足がきれいに治ったのを見た兵士たちは、狐につままれたような顔をしている。まだまだ治癒魔法は知られていないので、神の御業とでも思ったのかもしれない。
治癒魔道具を使って治療したミカ様を天使でも見るように、うっとりと見つめる兵士たち。そして、攻撃した私のことを悪魔でも見るように、怯えて目をそらしている兵士たち。なんて両極端。
治療が終わるとシゲノリ大佐が言った。
『尋問はサクラ、君に任せよう。拷問するよりも効果がありそうだ』
だーかーらー、どういう意味よ?そんなところがデリカシーに欠けるっての。アレンも私に背を向けて肩を震わしてるんじゃないよ。めっちゃ笑いをこらえてるのがバレバレだよ。
仕方なく私は軽く殺気を込めて隊長らしき人物を睨みつけ、尋問を始めた。
『私はサクラと申します。どうぞよろしく。まずお聞きしたいのは「密偵の疑い」についてです。どう考えても言いがかりですよね?』
『う、あ、お』
まともにしゃべれないのかな?私はさらに強く殺気を放った。
『言いがかりですよね?』
『は、はい、そ、その通りです。も、申し訳ございません』
手を縛られ正座状態の隊長が頭を下げて、額を地面にこすりつけた。両手が自由ならまさに土下座だね。
このあと(なぜか)従順になった隊長と兵士たちを尋問した結果、次のことが判明した。
・領軍の規模は1個中隊150名ほど(この程度の規模ならば問題ないとツージイ伯爵自身が言っていたらしい)
・領軍に魔導師は所属していない(攻撃用の装備は剣と弓だけ)
・立派な乗り物(高級な馬車や自動車など)に乗った観光客や商人が来たら言いがかりをつけて逮捕し、その持ち物を接収する
・身なりの良い金持ちそうな人物を見つけた場合も同様
・領都の通用門の門番から連絡を受けると、当直の1個分隊が出動する
・身ぐるみを剥いだあとは嫌疑不十分で釈放して領都を追い出すものの、帝国政府に通報されないように密かに始末する(この領を出たあと)
なるほどね。要するに領全体が強盗団ってことか。伯爵自身が強盗団の頭目とはね。この帝国は本当に大丈夫なのか?腐りきってるよ。
ハウハ家の悲劇の真相をツージイ伯爵自身の口から聞くために来たってのに、それ以前に救いようのない犯罪者だったでござる。どうしよう?
『ヨシフルお兄ちゃん、これってどう始末をつければ良いのかな?』
『当然、帝国軍によって領軍を壊滅させ、ツージイ伯爵を捕縛することになるな』
『うーん、軍を呼び寄せるのに時間がかからないかな?私たちでやったほうが早いんじゃない?』
ここでアレンが会話に割り込んできた。
『サクラ、どうして君はいつもいつもそんなに好戦的なんだ?単に面倒くさいって思ってるだけだよね?』
ぐっ、さすがはアレン。私のことをよく分かっている。面倒だから自分でやったほうが速いって思ってるのがバレバレだ。
『俺とアカネが艦砲魔道具を使って、サクラとサネユキがアンチエアクラフトガンの魔法を放てば1個中隊程度軽く殲滅できるけどな』
シゲノリ大佐の言葉を私が即座に肯定した。
『だよねー。全然危険じゃないよね』
『うーん、弓の射程外からなら危険はないけど、僕たちがやるべきことかな?』
アレンが難色を示しているのは帝国の国民じゃないからだと思うけど、私はこれでも帝国の大使だしなぁ。
ちなみに、この話(4人で1個中隊を殲滅できるって話)を聞いていた領軍の兵士たちは、何とも言えない顔をしていたよ。そりゃ常識で考えたらあり得ないからね。