273 大捕り物
チュージ親分が子分たちを総動員して集めた情報は、やはり大したものだった。しかも1台の通信魔道具を親分に預けておいたので、随時リアルタイムで報告が入るのだ。
どうやら親分のところの盃を受け取っていないような中途半端な半グレ集団がいるらしい。構成員の数もかなり多いそうだ。
そいつらが犯人であることは99%間違いないと親分に言われた。で、今はそいつらのトップがいるアジトの場所をなんとか割り出そうとしているところだそうだ。
半グレ集団のトップを捕まえて、そこから芋づる式に末端まで捕まえる作戦が(警吏本部と話し合った結果)可決された(カバーヤ総督の了承も貰っている)。
『姉さん、分かったぜ』
待望の情報がチュージ親分から入るのにそれほど時間はかからなかった。
私たちは警吏本部の捜査員たちやチュージ親分が選抜した腕の立つ兄さん方とともにアジトに押し入った。もちろんアレンは愛用の剣で、シゲノリ大佐と私は自動連射装置、ミカ様は精密射撃装置で武装しているよ。
万全の態勢を整えて臨んだ大捕り物は何の問題もなく大成功で終わった。特に劇的な展開も無かったよ。
半グレ集団のトップの男は拷問をちらつかせただけでペラペラと仲間の情報をしゃべり始めた。仲間を自分の手駒としか思ってないんだろうね。
その情報によって各街の一斉捜索が実施され、強盗団全員が捕縛されたのは三日後のことだった。
結局、私たちが領都に着いてから約10日間でこの行方不明事件はスピード解決したよ。もちろん、チュージ親分の協力が得られなかったらもっと苦労したと思うけどね。
さらに朗報だったのが、この半グレ集団のトップの男は旧ファインラント王国の抵抗勢力とも繋がりを持っていたってことだ。どこで知り合ったのかは分からないけど、帝国人しか狙わなかった理由はこの繋がりにあったということだね。おそらく抵抗勢力に罪をなすりつけるつもりだったのかもしれない。
この男に抵抗勢力に所属する人間に連絡を取るように命令したのは言うまでもない。
領都の繁華街のとある酒場でシゲノリ大佐が抵抗勢力に所属する人間と接触し、こちらのメッセージを伝えることができた。
・抵抗勢力のリーダーは速やかに出頭してほしい
・抵抗勢力に所属しているだけでは罪には問わないので、メンバーも一緒に出頭するように
・ただし、犯罪者は法に基づいて処罰する(今回の帝国人行方不明事件に関わっていた者も)
・旧ファインラント王国の第二王子殿下とその側近たち及びハウハ家の末の姫様が存命であること
・将来的にこの地はハウハ家の末の姫様が領主となり、第二王子殿下を代官として任命し、統治される予定であること
そしてほどなくして抵抗勢力のリーダーを含むメンバー全員が警吏本部に出頭してきた。その連絡を受けた私たちが警吏本部へ行くと、広い会議室の中にはかなりの人数が椅子に座っていた。30人くらいはいるかな?
私たちが部屋に入ると全員が一斉にこちらを見たんだけど、ミカ様の姿を見た途端に一人の女性から声があがった。
『まさかミカ姫様?ああ、神様ありがとうございます。こんなにお美しくご成長なされて…』
聞いてみると屋敷で働いていた侍女の一人らしい。幼いミカ様のこともよく知っていたそうだ。滂沱の涙を流していたよ。
ちなみに、抵抗勢力のメンバーは、かつてのファインラント王家に仕えていた騎士や侍従、侍女たちがほとんどだそうだ。そしてリーダーは侍従長だった。
まぁ抵抗勢力とは言っても穏やかな集団で、テロや犯罪なんかとは無縁だったみたいで良かったよ。私がかつて自動連射装置や精密射撃装置をこの人たちに送ってやろうと思っていたことは秘密にしておこう。どう考えてもテロリストは私です。