267 深夜の襲撃
夕食は宿の1階にある食堂を使わず、宿の外に出た。街中にある食事処で食べるつもりだ。遅効性の睡眠薬なんかを食事に混ぜられる可能性があるからね。
シゲノリ大佐にも先ほどの推測を話すと、やはり宿自体に嫌な気配を感じていたらしい。
食事を終えて宿に戻ると、フロントの女性がほんの一瞬だけほっとした表情になった。よく見ていなかったら気付かないくらいの一瞬だったけどね。
この宿に風呂は無いので、トイレだけ済ませてそれぞれの部屋に入った。ここまでは監視されている可能性があったので、とりあえず分散してそれぞれの部屋に入ったのだ。
しばらくしてからシゲノリ大佐、アレン、ミカ様が私の部屋にこっそりと集合した。
私はすでにアイテムボックスから取り出していた剣をアレンに、自動連射装置をシゲノリ大佐に、精密射撃装置をミカ様に手渡した。私自身は魔法で何とでもできるので、手ぶらだ。
もしも襲撃があるとすれば、日付が変わってからの0時から3時の間くらいだろう。普通は熟睡している時間帯だね。
それまでは交代で睡眠をとることにした。アレンと私、シゲノリ大佐とミカ様という二人ずつのグループで警戒しているんだけど、なにしろ部屋が狭いので居場所がない。仕方なく狭いベッドに二人並んで寝ないといけないため、ちょっとドキドキする。グループ分けを失敗したかもしれない。なにしろ、すぐ隣にアレンが密着して寝ているからね。心臓がバクバクですよ。
『サクラ、サネユキ、起きろ』
小声でシゲノリ大佐が私たちを起こした。もう交代時間かな?まだ眠いよ。心臓バクバクとか言いつつ、いつの間にか寝ていたみたい。
『どうやら来たようだぞ』
一瞬で目が覚めた。
廊下の奥から団体様の気配が近付いてくる。足音は殺しているようだけど、大人数の息遣いは隠せない。隣の部屋の鍵が開く音がした。合鍵かよ、これで宿屋もグルだってことが確定したな。
誰もいないことに気付いたのか、隣の部屋が少し騒めいている。そしてこの部屋の鍵が外から解錠された。ゆっくりと音を立てないように静かに開かれていくドア。なかなかホラーだな。
私は部屋に備え付けられている照明の魔道具を点灯した。
部屋のすぐ外に照明のまぶしさに目を細めて左手をかざしている男がいた。右手には剥き身の剣を持っている。賊確定だ。
アレンが一瞬で間合いを詰め、賊の右手を斬り飛ばした。悲鳴を上げてうずくまる男を蹴り飛ばして廊下へ出たシゲノリ大佐が自動連射装置を乱射した。真っ暗闇なので狙いもつけずに引き鉄を引きっぱなしだ。
アレンとミカ様と私が部屋の外に出て、照明の魔道具をかざすとそこには阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。数えてみると8人の男たちが血を流してうめいているけど、どうやら死者はいないみたいだ。なにしろ射撃音がしないので男たちは暗闇の中、どうやって攻撃されたのかも分からず戦闘力を失っていったわけだね。ある意味、お気の毒様だな。
と、ここで向かいの部屋から男が出てきたのを見たアレンが、男の持っていた剣を自らの剣で叩き落し、そのまま首筋に剣を突き付けた。捕虜一名確保です。
アレンやシゲノリ大佐の部屋からも男たちが出てきたんだけど、廊下の惨状を見た途端そのまま逃亡を図った。階段方向へ向かって走って逃げようとした男たちは、膝射の体勢でのミカ様の精密射撃装置による射撃で全て倒された。本当に見事な腕前だ。
ちなみに私だけ何もしていない。てか、出る幕が無い。
私たち四人は捕虜一名とともに1階に降りてフロントの奥にある従業員スペースに押し入った。
フロントの女性が目を見開いて私たちを見た。そりゃ驚くだろうね、強盗とグルなんだから。
私はファインラント語で女性の尋問を始めた。
『部屋の合鍵はどこにありますか?速やかに出してください』
『な、な、何ですか?あなたがたは。こんな夜中に部屋に押し入るとは警吏を呼びますよ』
『あー、もちろん呼んでもらってもかまいませんよ。てか、呼んでください。なにしろ2階の廊下には強盗たちが転がっていますからね。早く呼ばないと死んでしまうかもしれませんよ』
『あ、あ、あ』
『で、当然あなたも強盗のお仲間ということで良いんですよね?合鍵を強盗に渡したでしょう?』
がっくりとうなだれてしまった女性をロープで縛って逃げられないようにしてから、シゲノリ大佐が警吏の詰所へと走っていった。