265 共和国と亡命政府
皇帝陛下は自身の爆弾発言に混乱する私を無視して、宰相様への指示をてきぱきと下していっている。ちょっと私の意思も確認してよ。
『余の姪が帝国の大使となるのだ。何の問題もあるまい?のう、サクラ・ガルムよ。くくっ』
ちょっ、笑ってるじゃん。
えっとつまり私はマリア・フォン・シュトレーゼン(結婚後はマリア・フォン・リヴァストの予定)であると同時に、サクラ・ガルムという人格を持つということ?
一人二役もいいとこだな。
『要はシゲノリ大佐を王国に常駐させるための方便が必要なのであろう?しかし大使に任命するには若すぎるからな。駐在武官として王国の武力調査や技術情報の収集を任せるのが妥当だろうよ』
いやいや私も若いよ。若すぎるよ。まぁ、すでに王国の大使ではあるんだけど。
『王国と帝国の利害が衝突した場合、私は王国側を優先しますよ。それでも良いのですか?』
私の質問に皇帝陛下が答えた。
『問題ない。そのような事態にならぬようにするまでだ。もしも利害が対立した場合は王国側に付いてもらっても構わんぞ。できれば中立の立場で利害調整してもらえるとありがたいがな』
ふむ、それなら引き受けても良いかな。
あ、そうだ。忘れるところだったけど、ファインラント亡命政府の件はどうしよう。アメリーゴ共和国を訪問してファインラントの元・第二王子と会見しないといけないんだった。
その件を陛下に尋ねると、驚くべきことを言われたよ。
『ああ、休戦協定が結ばれてから三日後だったかな。ファインラント亡命政府から声明が発表されたぞ。勝手に休戦した共和国の行動を非難する内容だったな』
『はぁー?…っと失礼しました。ファインラント亡命政府には愚か者しかいないのでしょうか。お世話になっている共和国を非難するとは』
ミカ様もかつての同胞の失態に恥ずかしそうにしているよ。
『うむ、この一事を踏まえても、かの亡命政府に統治能力は期待できぬのではないかな』
はぁ、側近が無能なのは確定だろうけど、それを抑えることができない第二王子にも問題がありそうだね。ファインラント領の代官にするのは諦めたほうが良いかもしれない。
『無能な側近を排して有能な人間で周りを固めれば、お飾りの第二王子でもうまく機能するかもしれません。とりあえず面接はしたほうが良いでしょうね。今年の秋にでも共和国を訪れることに致しましょう』
『うむ、分かった。王国の大使としての訪問になるであろうが、帝国の全権大使としてもその権能を行使することを許可する。気を付けて行くようにな』
うーむ、徐々に帝国に取り込まれていってるような気がするよ。いやいや、私は国王陛下の忠臣です。