264 皇帝へ謁見(3回目)
馬鹿三人が後ろ手に縄を打たれて連行されたあとも論功行賞は続き、中央部隊の師団長たち、軍医総監や司令部要員などが表彰された。
あくまでも軍司令官の権限の範囲内での表彰だけどね。昇進については帝都の参謀本部や軍務局などの所管なので、この場では決められないのだ。
ん?ってことはシゲノリ大佐の昇進もあるかな?いや、大佐に昇進したのがつい最近だから、さすがに無理か。
この論功行賞の翌日、私たち三人とシゲノリ大佐、それに護衛の特務小隊50名は帝都へ向かうべく陣地を出発した。
見送りは軍司令部総出で行われたんだけど、陛下の姪であることは隠しておいてほしいとお願いしたため、あまり大袈裟なものではなかった。
それでも今回の戦闘における私たちの功績を踏まえて、ノーギル軍司令官やイーチ参謀長までもが見送りに出てきてくれたよ。もっともノーギル侯爵だけは、私が皇帝陛下の姪ではなく、シュトレーゼンの悪魔だってことを知ってるんだけどね。って、誰が悪魔やねん。
馬鹿三人組も帝都へ連行されるんだけど、私たちとは同行しない。てか、私が同行を拒否した。
一週間の旅路は何の問題もなく、帝都に到着した私たちはすぐに登城し、皇帝陛下に拝謁した。
『マリア嬢、アレン殿、ミカ嬢、今回の帝国の危機に際しての助力、誠に感謝する。褒美をとらせたいのだが何か希望はあるかね。まずはアレン殿』
『いえ、特には。マリアの望みが私の望みでございます』
『ふむ、欲がないな。ではミカ嬢はどうだ?』
『はい、私も同じくマリア様の御心のままに』
『なるほどな。最後にマリア嬢はどうかな?』
うーん、そうだな。この機会に大使館設立をお願いしてみよう。
『一つだけお願いがあるのですが、かなり規模の大きなものなので無理ならば諦めます』
『よい、申してみよ』
『はい、それでは申し上げます。貴国の大使を我が国に常駐させる大使館という制度を新設することを提唱致します。そしてできれば大使館員としてこちらのシゲノリ大佐を任命していただきたく、ご検討の程よろしくお願い申し上げます』
『ほう、大使館とな。ふーむ、確かに今までに無かった制度ゆえ、この場で即断することはできぬが前向きに検討することを約束しよう』
『はは、ありがたき幸せに存じます』
『もしも貴国の大使館を帝国内に設けた場合、そなたが赴任してくれるのだろうか?』
『いえ、私は特命全権大使として諸外国間を動き回る必要がありますので、おそらくは常駐できる専任の大使が任命されることになると思われます』
『そうか、それは残念だな。そなたがこの国に駐在してくれれば何かと心強いのだがな』
いや、私はアレンの嫁としてリヴァスト侯爵家に入る身だよ。帝国に住むことはできないって。
このあと以前と同じように別室で歓談した。
メンバーは皇帝陛下、お后様、宰相様、シゲノリ大佐、アレン、ミカ様、そして私だ。前回のメンバーにシゲノリ大佐が加わって7人での歓談だ。
『謁見の間では聞けなかったが、三人の師団長の話をしてくれぬか』
皇帝陛下のお言葉にお后様が目を輝かせているよ。そんなに楽しみだったのかな。
私はあまり語りたくないので、シゲノリ大佐が中心となり、アレンが補足する形で例の一件(論功行賞の場での一件)が語られた。
宰相様が苦虫を噛み潰した顔になり、お后様が喜んでいる光景はデジャブーを感じるよ。陛下も楽しそうだ。
『あ、この札をお返ししておきます。ありがとうございました』
私は菊水紋のプレートを皇帝陛下に返そうとしたんだけど、断られた。
『いや、それはそなたが持っておいて良い。そなたならば悪用することはなかろう』
ええー、なんかプレッシャーなんですけど。てか、返したい。
番組後半45分頃の場面(土下座の場面ね)では、お后様がめっちゃ喜んでいた。水戸黄門を録画して見せてあげたいよ。
『ねえねえ、何かほかに面白いお話は無いのかしら』
お后様のお言葉に私はシゲノリ大佐の初恋とシャルロッテさんとの劇的な再会を話してあげた。多分、こういう乙女チックな話も好きそうだからね。
案の定、とても喜んでくれたよ。皇帝陛下や宰相様もニヤニヤしてシゲノリ大佐を見ている。
皇帝陛下が何かに気付いたように言った。
『先ほどの大使館の話は、もしやシゲノリ大佐とシャルロッテ嬢の仲を取り持つためか!』
『さあ、どうでしょう。ただ、私はうちの工房の優秀な魔道具職人であるシャルロッテさんを他国に嫁がせたくはないのですよ』
『シゲノリ大佐、そなたまさか王国への亡命を考えておらぬだろうな。優秀な軍人に去られると困るぞ』
シゲノリ大佐が冷や汗をかいている。
『いえ、まさかそのような…』
『うむ、分かった。それではこうしよう。大使にはマリア嬢を任命し、大使館付き武官としてシゲノリ大佐を任命することとする。これで良かろう』
はぁー?何で王国人の私が帝国の大使になるの?大混乱だ。