262 論功行賞①
軍司令官ノーギル侯爵のもと、司令部要員全員と各師団長が出席する論功行賞の席になぜか私たちも呼ばれた。いや出たくないんだけど。
今回の一連の戦闘は公称「ハルナ平原会戦」と呼ばれることになり、大兵力同士が戦った(12万人対7万人)にもかかわらず、小競り合い程度の戦闘に終始したことが特徴的だった。
そして本格的な航空戦と対空戦が行われたことでも特筆すべきものだった(国境砦の戦闘が初めての航空戦だったけど、機数も少なかったしね)。
それはともかく問題なのが、敵と戦っていない部隊がほとんどだったという点だ。
中央に布陣していた2個師団はそれなりに敵の地上部隊との戦闘を行っているんだけど、左翼の2個師団と右翼の2個師団は実は何もやっていない。なお、残り1個師団は戦略予備なので、これまた何もしていない。
さらに主に戦っていたのがアレンとミカ様という民間人(軍属)だったことも困った問題なのだ。
参謀長のイーチ中将を会議の進行役として、最初に呼ばれたのがシゲノリ大佐だ。
中央に進み出たシゲノリ大佐にノーギル侯爵が話しかけた。
『シゲノリ大佐、貴官の部下である軍属3名の勲功が第一等である。よって正規の軍人である貴官に勲章を授ける。民間人である軍属には与えられないのでな』
『ははっ、ありがたくお受け致します』
おお、勲章だって。良かったね、お兄ちゃん。ミカ様も嬉しそうだ。
『異議あり!そもそもなぜ民間人が参戦しているのか。強力な魔道具を持っているのなら、自発的に軍に差し出すべきであろう』
『その意見には儂も賛成だ。民間人の出る幕ではないわ』
『さらにその民間人の功績で勲章を受け取るなど恥ずかしいと思わんのか』
ああ、軍人にありがちな考え方だね。まぁプロがアマチュアに負けたという事実を認めたくないのだろう。うん、分かる分かる。
この反対意見を述べたのは、今回全く戦闘に参加していない左翼と右翼の計3個師団の師団長たちだ。
中央部隊の師団長たちは私たちに感謝しているのか、好意的な視線を向けてきたんだけどね。
『儂の部隊がその魔道具を使っていれば、もっと多くの戦果を挙げたことだろうよ』
いやー、それは無理じゃないかな?ミカ様の狙撃手としての技量とアレンの天才的な対空射撃術があってこその戦果だよ。てか、アレンのほうは魔道具じゃないし。
まぁ、プロの矜持ってやつかな。
それよりも私たちの素性を知っているノーギル侯爵の顔色がめちゃくちゃ悪くなってるんだけど大丈夫かな?ご高齢だからちょっと心配だ。
『いっそのこと、そいつらを不法に武器を所持していた罪で逮捕し、魔道具を接収してしまえば良いのだ』
『おお、それは良い。シゲノリ大佐も罪人を匿った罪で軍法会議にかけるか』
『ああ、平民出の軍人など我ら帝国貴族に比べればゴミのようなものだからな』
やばい、ノーギル侯爵が貧血で倒れそうだ。おじいちゃん、大丈夫?
『黙って聞いていれば言いたい放題。貴様らこちらにおわすお方をどなたと心得る』
シゲノリ大佐がついにぶち切れた。うーん仕方ないか。私は皇帝陛下からお預かりしている菊水紋のプレートをアイテムボックスから取り出し、アレンに手渡した。
『ああーん、民間人の女だろう。よく見たらかなりの美人だな。よし逮捕を免除する代わりに儂のものになれ』
美人って言われちゃったよ、てへ。でも、アレンの顔が怖いことになっているよ。やっべぇ。
『俺はそっちの10代半ばくらいの女のほうが良いな。おいお前、今夜は俺の寝所に来い。これは命令だ』
おっとロリコン発見。お前のほうが犯罪者じゃないか。
『そんなことより、大佐のくせに中将である儂たちを貴様呼ばわりしたこと、許さんぞ』
いや、シゲノリ大佐の口調から不穏な気配を感じ取れないのかな?勘が悪いんじゃない?
アレンが立ち上がり、例のプレートを掲げ、全員に見えるように左右に動かした。この紋所が目に入らぬか。
それを見たシゲノリ大佐が水戸黄門的な口上を述べ始めた。
『このお方は、恐れ多くも皇帝陛下の御令姪様であるサクラ・ガルム様であらせられるぞ。一同の者、サクラ様の御前である。頭が高い。控えおろう』
この場にいる全員がアレンの持つ菊水紋のプレートを呆然と眺めていたんだけど、我に返った一人が土下座すると連鎖的に全員が土下座した。
これって、私がしゃべらないといけない流れなんだよね。面倒くさいな。
『皆さん、頭を上げてください。私は皇帝陛下の姪ではありますが、あくまでもお忍びで参戦しています。先ほどシゲノリ大佐や私たちに暴言を吐いた三人の師団長以外の方は楽にしてくださいね』
これを聞いた全員(馬鹿三人以外)があからさまにほっとした表情になった。
馬鹿三人はブルブル震えているけどね。