260 ハルナ平原会戦⑦
まだ共和国軍には航空魔道具が50機ほど残っている。この数はいまだに脅威であることには変わりない。
そして今度は地上軍と連携して攻めてきた。航空魔道具の高度は第1戦目と同じだけど、その進撃速度は地上軍と歩調を合わせているため非常に遅い。
アレンとミカ様は前回と同様、中央部後方で対空射撃を担当するけど、私だけはシゲノリ大佐と護衛の1個分隊とともに司令部のある崖の上に腹ばいになって望遠鏡で戦場全体を俯瞰している。どうせ対空射撃は下手ですよーだ。シゲノリ大佐からは適材適所だと言われたけどね。
敵の航空魔道具はゆっくり飛んでいるため正確な機数を調べることができたんだけど、どうやら52機が来襲したようだ。
1500メートルほどの距離からアレンがアンチエアクラフトガンの魔法を撃ち始めた。ところが今度は爆風でよろめく機体はあれど、撃墜される機体はない。
爆発範囲に突っ込んでも平気な感じで飛んでいるよ。やべぇ、防御結界装置を展開しているな。
たまに高射砲弾が直撃した場合に撃墜できているだけだ。
500メートルの距離まで10分はかかっているんだけど(地上部隊と同じ速度で飛んでいるので)、その間に撃墜できた数はわずかに3機のみだ。
なお、私は崖の上からアンチエアクラフトガンを撃っていない。魔力を温存するためだ。てか、撃っても当たらないしな。
距離500メートルからはミカ様の精密射撃装置による射撃なんだけど、やはりダメだ。当たってはいるはずなんだけど、全て防御結界に阻まれているね。
ただ残り100メートルくらいからは防御結界を抜くことで撃墜される機体も多くなってきたんだけど、敵も飛行速度を上げて突入してきたので攻撃可能時間はそれほど長くなく、なんとか5機を落とせただけだ。
そしてついに44機が攻撃を開始した。
なんと今回は投下用魔道具ではなく、物理的な落下物攻撃(あとで調査した結果、具体的には10キログラム程度の石を1機あたり5個投下したようだ)に切り替えている。220個の石が降り注ぐことになったわけだ。
重力加速度が前世と同じ9.8メートル/秒^2(9.8メートル毎秒毎秒)ならば、100メートルの高度から投下された物体は地上では時速160キロメートルにもなるよ(空気抵抗を無視した場合)。
10キログラムの石が時速160キロメートルで当たればさすがにただでは済まないね。頭に当たれば脳挫傷か頸椎損傷で即死、肩に当たれば骨折は確実だ。まぁ、兵士たちは兜をかぶっているので頭に当たってもなんとか耐えられるかもしれないけど、気絶はするだろうね。
中央部前衛部隊はこの航空攻撃に混乱していて、地上部隊への対処ができていない。やばい、このままでは敵の地上部隊に中央部を突破される。
シゲノリ大佐が通信魔道具を使って司令部に状況を報告していて、予備兵力を中央部に穴埋めするように指示しているんだけど、間に合わないかもしれない。
アレンやミカ様は味方が壁になっているため、敵の地上部隊を攻撃できない。
むー、私がやるしかないか。
アンチエアクラフトガンの魔法では味方にも被害が及ぶ可能性があるので使えない。フレンドリーファイアだ。
仕方ない。奥の手を出すしかないな。
私はアイテムボックスから艦砲魔道具を取り出して、敵の最前列よりも少し後方を狙って発射した。
敵の兵士に直撃はしなかったけど、着弾後その場で大爆発を起こした。シゲノリ大佐の視線を感じるよ。威力は小さいけどブレーン会戦のときの攻撃と同じものだと気付いたようだね。
『サクラ、その攻撃は例の「地雷」などという架空の魔道具だよな』
ジト目で見られているのは分かっているけど、相手している暇はないよ。
2射目、3射目と発射して次々と爆発が発生している。敵の中央部前衛部隊は混乱の極みだ。防御結界装置を持っている者も関係なく被害を受けているからね。アンチエアクラフトガンの散弾は魔力で構成されているから防御結界で防げるけど、これは100%爆発という現象に変換しているので、その結果生じた爆風は純粋な物理現象になるのだ。
物理的な攻撃は防御結界装置では防げない。
敵に生じたこの混乱により、味方の陣を立て直す余裕が生まれた。
ふぅ、なんとか危機は去ったな。
だからシゲノリ大佐、そんな目で私を見ないでよ。