259 ハルナ平原会戦⑥
前回の航空戦のあと共和国側には動きが無い。満を持して投入した新兵器(航空魔道具)があまり効果を発揮できず、逆に撃墜されるものが多いという今の状況にショックを受けているのかもしれない。
このままこの陣地を国境線として確定させることを狙っているのかな?ハルナ平原をDMZ(非武装地帯)とすることで。
共和国としては帝国側の国境砦を占領してある程度の支配領域を得たことで、この戦争の収支は合うと考えているのかもしれないね。
あと、地上部隊を力押しで攻め込ませない理由は、おそらくアンチエアクラフトガンの魔法が地上部隊に対して放たれるのを警戒しているんじゃないかな?分からないけど。
一週間後、白旗を掲げた軍使が護衛二人を伴い、帝国側陣地に歩いてきた。降伏のはずが無いので、おそらく休戦の申し出だろうか。
やってきたアメリーゴ人の軍使がガルム語で言った。
『アメリーゴ共和国軍参謀のニミット少佐である。そちらが回収した我が軍の航空魔道具を引き渡していただきたい。それとハルナ平原に散らばる航空魔道具の残骸を回収する際、攻撃を控えていただきたい。代わりに国境砦で得た貴国の捕虜をある程度の人数、貴軍へ引き渡す用意がある』
洞窟司令部の中に招き入れるわけにもいかないので、洞窟の外に天幕を張って司令部に偽装した場所で会見したんだけど、私たちも物陰からこっそりと盗み聞きしていたんだよね。
イケおじ参謀長(コウスケ・イーチ男爵というらしい)が軍司令官であるノーギル侯爵の名代として対応しているんだけど、どうするつもりだろう?
『ふむ、帰還できる捕虜の人数にもよりますな。まずは現在の捕虜の人数をお教え願いましょうか』
『現在8132名が捕虜となっており、うち重傷者1835名、軽傷者6129名だ』
メモ用紙を見ながら人数を教えてくれたけど、これが本当に正確なのかは不明だ。
『ではその全員を引き渡すことで先の条件を呑むことと致します』
『はっ、帝国人はやはり低能だな。そんな条件をこちらが呑めるわけがなかろう』
なかなか失礼な軍使だな。こっそりと覗いて顔を確認すると、40代くらいの年齢に見えた。
丁々発止のやり取りが繰り返され、結局のところ重傷者1835名と軽傷者1165名の計3000名の捕虜を解放するという条件で折り合った。
うん、まあまあの交渉結果じゃないかな。さすがは参謀長だ。
こちらの戦力を増やさないためにも、軽傷者はより症状の重い者を優先的に引き渡すだろう。でもそれはこちらも望むところなんだよね。なにしろ治癒魔道具があるのだから。
この交渉から三日後、担架や荷車に乗せられた捕虜たちが共和国軍兵士とともにこちらの陣地へやってきて、代わりに航空魔道具を荷車に積み込んで帰っていく。歩ける捕虜は自力で歩いてきたけどね。
ハルナ平原上に散乱している墜落した航空魔道具の残骸やパイロットの遺体も共和国軍によって回収された。いわゆる戦場掃除だね。遺体はかなり腐敗していたようだけど。
このあと戦闘はどうなるんだろう?なし崩し的に休戦状態から終戦へ至るということも考えられるけど、とにかく共和国次第なんだよな。帝国のほうから敵陣地へ攻め込むだけの余力は無いからね。