258 ハルナ平原会戦⑤
敵の航空部隊の損耗率は前回が13%、今回が46%にもなる。3割以上の損失は全滅判定されるほどだよ。
今回、あまりの損耗率に腰が引けたのか、歩兵部隊は進軍してこなかった。
私はシゲノリ大佐に依頼して、墜落した航空魔道具を数機ほど回収してきてもらった。これで姿勢制御の秘密が分かるよ。ふふふ。
航空魔道具1機あたり6台の推進器を使っているわけだけど、やはりうちの工房製だったよ。
操縦系は右手側に操縦桿、というかゲームのジョイスティックみたいな小型のレバーがあり、前に倒すと前進、左右に倒すと左右旋回のようだ。
左手側には四つのスライドスイッチがあり、上昇用の推進器と連動している。
あれ?ジャイロは?…結論を言えばそんなものは存在しなかった。まじかよ、手動での姿勢制御だよ。
操縦席の目の前には円筒形のガラスの中に赤い色の水が半分ほど入っているものが置かれている。水準器だな。この水の傾きを見ながら左手側のスライドスイッチを調整するのか、神業と言っても過言ではないな。操縦訓練には時間がかかりそうだ。
せっかくジャイロ機構の技術を盗める…じゃなかった、参考にできると思ったのに残念だ。もっとも、操縦手の育成には時間がかかるという情報を得られたのは良かったけどね。
航空魔道具を調査していると、シゲノリ大佐が質問してきた。
『サクラ、これと同じものが帝国で作れると思うかい?』
『ええ、作れますよ。うちの工房製の推進器さえ入手できれば簡単です。ただし、操縦手の育成は大変ですけどね。まったくこういうのを技術的敗北って言うんですよ』
『ん?何か怒っているのか?』
『怒ってますとも。飛行中の姿勢制御を自動化せず、人間の技量に頼るなんて技術者として失格ですよ』
『君の開発した飛行機械は姿勢制御が自動化されてるのかな?』
『うーん、正確に言うと姿勢制御の必要が無いってのが正しいですかね。操縦手の訓練は容易で、大量育成が可能ですよ』
回転翼によるジャイロ効果で安定しているからね、うちの飛行機械は。
『やはり君とは絶対に敵対できないな。今後ともよろしく頼むよ』
なんだか悟りを開いたような達観した顔でシゲノリ大佐が言ったけど、それは私も同じだよ。帝国とは対シンハ皇国という点でも協力体制を維持しておきたいからね。
『うーん、私だったらこの機体に防御結界装置を標準装備として付けるでしょうね。アンチエアクラフトガンや精密射撃装置による攻撃を防ぐためにも…』
『ん?ということは、共和国が防御結界装置を航空魔道具に備え付けた場合、撃ち落とせなくなるということかい?』
私の独り言にシゲノリ大佐が質問してきた。
『ええ、その通りです。絶対に敵に知られてはいけない情報ですね。あ、ただうちの防御結界装置を基準に考えているので、共和国製のものだったらもしかしたら撃ち抜けるかもしれないですけど…』
『それは一度実験してみないといけないな』
『そうですね。共和国製の防御結界装置を入手できれば、ですけど』
シゲノリ大佐によると、国境砦を攻めた際に鹵獲した防御結界装置をそのまま帝国軍で利用しているそうだ。この部隊の中にも帝国製に混じって少数の共和国製が使われているらしいので、それを数台集めてもらった。
後日実験したところ、アンチエアクラフトガンの直撃は貫通するけど、破砕後の6ミリ散弾は完璧に防ぐことができた。
さらに精密射撃装置については距離によって抜けるか抜けないかが決まった。200~300メートルの距離なら貫通するけど、それ以上の距離では抜けなかったよ。
これって、かなりまずいかもしれない。せっかく対空攻撃技術を確立したと思ったのに、その対処法まで見つかるとは…。果たして敵はこれに気付くだろうか?
余談だけど、ついでに帝国製とうちの工房の防御結界装置でも実験してみたところ、帝国製は共和国製とほぼ同じ性能で、うちの工房のものはアンチエアクラフトガンの直撃や至近距離からの精密射撃装置弾にも耐えることができた。この結果にもシゲノリ大佐はショックを受けていたけどね。
あれ?でもこの結果を見ると、アンチエアクラフトガンを魔道具化して帝国に供与しても問題ないってことになるね。うちの飛行機械に防御結界装置を積んでおけば良いんだから。