254 ハルナ平原会戦③
司令部で行われる会議に出席を要請されたので、シゲノリ大佐とともに私たち三人は洞窟内に設けられた会議室(のような大空間…大きな机が一つあるだけの殺風景な部屋)に入室した。
まずノーギル侯爵が発言した。
『今回の戦闘で敵の航空部隊に被害を与えることができたのはアカネ君とサネユキ君だけだ。あと投下用魔道具の対処法を教えてくれたサクラ君も含めて、この三人の軍属が勲功として最大級のものであることは言うまでもあるまい』
司令部員たちは、プロの軍人が軍属とはいえ民間人に負けたことで悔しそうにしている。
神経質そうな細面で、眼鏡をかけた参謀長が発言した。ロマンスグレーでなかなかのイケおじだ。大学教授っぽいけど中将らしい(ヨシテル将軍と同格だね)。
『サクラ君、君たちは特殊な魔道具で攻撃していたようだが、それらを量産して軍に提供することはできないのかね?』
『はい、これらは古代遺跡から発掘されたものであり、解析して複製品を作ろうにも分解しようとすると壊れてしまいます。したがって量産も供出もできかねます』
はい、嘘八百です。
『しかし民間人がこのような危険な武器を所持しているのは問題ではないのか?軍に供出すべきと私は考えるが』
うん、確かに正論だ。私も立場が逆なら同じことを言うだろうね。でも正論だけに反論が難しい…どうしよう。
ここでシゲノリ大佐が助け舟を出してくれた。
『この武器を供出または貸与しない代わりに軍属として参戦してもらっているのです。これは皇帝陛下直々のご命令ですので、異論を唱えることは許されません』
『なるほど、了解した。陛下の勅命であれば仕方ない。ただ、今後の戦闘においても君たちの力を借りなければならないのは忸怩たる思いだ』
まぁ確かに民間人頼りなのは恥ずかしいよね。でも、こと対空戦闘においては、帝国軍は全くの無力なんだよな。
『ただしこれだけは言っておきたい。君たちの活躍が無ければ、我が軍は敗走していた可能性が極めて高い。感謝申し上げる』
参謀長の言葉に頷く司令部員一同。私たちが真の意味でこの司令部に受け入れられた瞬間だった。
このあと会議では共和国軍への対処が話し合われたんだけど、これといった名案も出なかった。初回の戦闘と同様に対処するというのが結論なんだけど、かなり危ういものを感じる。主導権が敵にある以上、同じ攻め方をしてくるとは考えづらいよね。
実はこの戦いを帝国軍の勝利に終わらせる方法は一つあるし、その機材は私のアイテムボックスに入っている。
それは艦砲魔道具を敵陣地の後方に撃ち込むことだ。敵陣地までの2キロメートルという距離は、艦砲魔道具にとっては十分に有効射程距離だからね。
でもこれは最後の手段として、できるなら出したくはない。味方が帝国軍ではなく王国軍ならば、躊躇なく使うんだけどね。
とにかく航空攻撃さえ何とかできれば良いのだ。私たち三人が考えるのはそれだけだよ。地上戦はプロの人たちにお任せしたほうが今後のためにも、あと論功行賞的にも良いだろう。私たちだけが戦功を立てるのはあまりよろしくないからね。